緩慢な崩壊か急速な瓦解か──イラン・イスラム共和国体制の岐路
イラン・イスラム共和国体制の崩壊への具体的なシナリオには、2つの道筋が考えられる。
第1は「緩慢な崩壊」シナリオである。持続的な経済制裁、散発的な抗議活動、エリート内部の権力闘争、世代交代の失敗により、体制は徐々に統治能力を失い、最終的に、かつてのような立憲王制にはならないにせよ、権威主義的ではない世俗的な政権へと変容する。
これはソ連崩壊のイラン版といえるかもしれない。ハメネイ師の死去や、同師のイランからの脱出は、この移行の触媒となる可能性がある。ウィトコフ米国特使とアラグチ外相のコンタクトなどを通じて、こうした変化がもたらされ得るかもしれない。その場合には、86歳の最高指導者に匹敵するカリスマと権威を持つ後継者は存在せず、後継者選定プロセス自体が体制内の亀裂を一層露呈させるだろう。
第2は「急速な瓦解」シナリオである。米国の限定的な軍事攻撃が新たな大規模デモを触発し、IRGCの亀裂(特に徴兵制の一般兵士と幹部との間)が顕在化し、体制が一気に崩壊する。これは1989年の東欧革命や2011年のアラブの春に類似したドミノ効果である。
ただし、この場合でも外部の軍事力が体制を「打倒」するのではなく、内部の力学が崩壊を引き起こし、外部の圧力はその触媒として機能するに過ぎない。
いずれのシナリオにおいても、決定的な要因は外圧ではなく内圧にある。米国の軍事力は、イランの核・ミサイル能力を破壊し、経済を窒息させ、地域的影響力を削ぐことはできるが、体制を直接打倒することはできない。それを成し遂げられるのは、現在、体制内にいる人々も含めたイラン国民だけである。
現下のトランプ政権の戦略は、本質的にこうした認識に基づいている。「戦略的服従」という目標設定それ自体が、古典的な政権転覆の困難さを認めたものである。一方、この戦略は、イランの体制にとって致命的な矛盾を露呈させるものともいえる。
イランの指導部に核開発の永続的放棄、地域的野心の縮小、米国の優位の受容を強制しようとする試みは、必然的に体制の存在理由そのものを否定することになる。イスラム共和国は、「米国とイスラエルに屈しない抵抗の拠点」というアイデンティティの上に成立している。戦略的服従を受け入れることは、体制の自己否定に等しい。
したがって、米国が意図すると否とにかかわらず、「戦略的服従」を強制する試み自体が、体制崩壊への道を加速させることになる。イラン指導部は服従か崩壊かの選択を迫られているが、服従を選べばイラン国内での正統性を失い、崩壊への道を歩むことになり、服従を拒否すれば外圧の強化により同じく崩壊への道を歩む。これは真の意味でのゼロサムゲームである。