出所:共同通信イメージズ出所:共同通信イメージズ

 2026年6月、武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長CEO(最高経営責任者)が退任し、ジュリー・キム氏が新CEOに就任する。大胆な改革で世界のメガファーマ入りを果たした同社を、「両利きの経営ではなく、片手利き経営でグローバル企業に成長した好事例」と評価するのは、2025年9月に著書『何が日本の経営者を迷走させたのか 米国流への誤解・錯覚・無理解を斬る』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した、コーン・フェリー・ジャパンの綱島邦夫氏だ。米国流の経営用語を正しく理解するために必要な視点や、誤解されがちなポイントについて、同氏に聞いた。

日本では「選択と集中」が誤解されて広まった

──著書『何が日本の経営者を迷走させたのか』では、日本人が「米国流であると誤解している概念や手法」について解説しています。その一つに「選択と集中」があるとのことですが、なぜこうした誤解が生まれたのでしょうか。

綱島邦夫氏(以下敬称略) 選択と集中と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、不採算事業を短期的に切り離し、ROEを引き上げて株価の上昇を狙う経営手法でしょう。しかし、そうした発想が、21世紀における米国の伝統企業の衰退を招いた一因であるという見方は、いまだ十分に広く知られていません。

 そもそも選択と集中が日本国内で広まったのは、2008年に日立製作所がリーマンショックの影響で7873億円という大幅赤字に陥った際、子会社の社長をしていた川村隆氏が本社に呼び戻されて社長として再建を指揮したことに端を発します。川村氏は「GEのジャック・ウェルチが行った『選択と集中』には懐疑的であったが、日立製作所も四半世紀遅れて取り組むことにする」と表明・実行し、自社の財務を立て直しました。

 しかし、選択と集中という言葉そのものは、アメリカには存在しません。そして、川村氏が実際に行ったことは、「リストラクチャリング(事業再編)」と呼ぶべきものです。

 加えて、ジャック・ウェルチ氏が実践していたのは選択と集中ではなく、「集中と排除」という考え方でした。つまり、「何をやるか」ではなく、「何をやらないか」を重視していたのです。そして、あらゆる事業において「世界1位、最低でも2位にならなければならない」と述べ、寡占化の重要性を強く主張していました。

 ところが日本では選択と集中が誤解されて広まり、いつのまにか財務指標を軸としたポートフォリオマネジメントのことだと勘違いされるようになります。「儲かる事業に資源を集中し、儲からない事業は切り捨てる」という短期志向の論理にすり替えられてしまったのです。