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 競争の軸足を「機能」から「価値」へと移し、高級時計市場の支配的地位を奪還したスイスの時計産業。その筆頭であるロレックスは、いかに「製造業の論理」から抜け出したのか。『ロレックスの経営史』(ピエール=イヴ・ドンゼ著/大阪大学出版会)から一部を抜粋。王者のブランドマネジメント戦略をひもとく。

 1990年から2019年にかけて、ロレックスは特許攻勢をかけ、外部部品の自社開発に注力した。商品開発より生産の垂直化を推し進めた狙いとは?

マーケティング戦略の継続

ロレックスの経営史』(大阪大学出版会)

 1990年以降、ロレックスのマーケティング戦略は根本的に変わることはなかった。エクセレントな人のためのエクセレントな腕時計という、前時代に確立されたデザインが今日まで続いているのである。

 このようなポジショニングは、大きな変化を遂げつつある業界にあっては、保守的と受け止められるかもしれない。しかし、これこそがロレックスの強さであり、エクセレンスについてのナラティブに正当性を与えているのである。

 この時期に発表された主な新作モデルは、2012年に発売されたスカイドゥエラー・アニュアルカレンダー・デュアルタイムである*154。この時計は技術的な面では真に斬新なものであるが、しかし、デザイン性はデイデイトを受け継ぎ、ブランドの継続性に沿ったものである(図8.2参照)。つまり、ロレックスは1960年代までに開発されたモデル(オイスター・パーペチュアル、デイデイト、サブマリーナ、デイトナなど)にこだわり続けているということになる。

図8.2:ロレックス・スカイ・ドゥエラー(2012年)…ロレックス・スカイ・ドゥエラーは、オイスターの美的枠組みの中で行われた製品開発の実例である。これによって、ブランドのスタイルを維持しながら革新することが可能になり、優越性についてのナラティブを満たす継続性が生まれるのである。/出典:Rolex SA

*154 Brunner, The watch book Rolex.