「追悼ヘルメット」で物議をかもしたウクライナの選手が失格にになった(写真:AP/アフロ)
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 (田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授) 

 ミラノ・コルティナ五輪のスケルトン男子にウクライナ代表として出場予定だったウラジスラフ・ヘラスケビッチ選手が、ロシアによる侵攻で命を落とした母国の選手らをあしらったヘルメットを試合で着用しようとして失格となった。

 五輪憲章では、競技場内で政治的・宗教的、人種的な宣伝活動を禁じている。同選手は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議を申し立てたが、棄却された。

 ウクライナへの同情や憲章の規定の範囲があいまいとの声がある一方で、五輪会場内での一線を越えた言動をいったん容認すれば、次の大会ではさらに歯止めが利かなくなるリスクもあった。

 ただし、紛争地から出場するアスリートに「五輪の場では競技だけに集中しろ」というのは、“平和ボケ”した理屈にも映る。

 ヘラスケビッチ選手の言動が、様々な事情を抱えるアスリートたちの「スポーツと政治」の距離の在り方に一石を投じた。

追悼か、政治的な宣伝活動か

「彼の競技を本当に見たかった」

 複数のメディアによれば、IOC(国際オリンピック委員会)のカースティ・コベントリー会長は2月12日、ヘラスケビッチ選手の失格について、会見でこう語って涙を流したという。

 元競泳のオリンピアンで、2025年6月には、アフリカ出身・女性初のIOC会長に就任したコベントリー氏にとって、最初の五輪で直面した大きな難題となったことは間違いない。

 ヘラスケビッチ選手のヘルメットにあしらわれたアスリートの写真は24人。全員が、ロシアの侵攻による母国の犠牲者だという。頭を前にしてそりに乗るスケルトンにおいて、ヘルメットの露出効果は絶大。練習走行時の写真がメディアを通じて世界に配信された。

ヘラスケビッチ選手のヘルメットには、ロシアの侵攻の犠牲者となった24人のアスリートの写真が(写真:PA Images/アフロ)

 追悼か、政治的な宣伝活動か——。

 IOCは最後までこのヘルメットの着用が、五輪憲章の規定にある「政治的シンボル」に違反すると立場を曲げることはなかった。ヘラスケビッチ選手も「追悼行為であり、政治的な主張ではない」と訴え続け、両者が最後まで折り合うことはできなかった。