現役を引退した後も、今なお若手選手たちに大きな影響力を与える羽生結弦さん(写真:松尾/アフロスポーツ)
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 (田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授) 

 2026年2月に開幕するミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート日本代表メンバーが決まった。

 その多くは、「絶対王者」と呼ばれ、2014年のソチ、2018年の平昌と、五輪2連覇を果たし、2022年の北京五輪まで3大会連続で出場した羽生結弦さんに憧れ、目標にしてきた若きスケーターたちだ。

 男子3選手は、エースの系譜を継ぐ男子の鍵山優真選手(オリエンタルバイオ・中京大)、同郷の佐藤駿選手(エームサービス・明大)、憧れを口にする三浦佳生選手(オリエンタルバイオ・明大)。

 羽生さんは2022年の北京五輪を最後に競技スケーターからプロへと転向したが、世界で勝つために戦った軌跡の中で見せてきた強い意志と世界を魅了したパフォーマンスは、彼らの心に強く刻まれている。

羽生結弦さんの影響を受けた五輪スケーターたち

 2014年ソチ五輪の男子ショートプログラム(SP)では、フィギュアの歴史を塗り替えた瞬間が訪れた。当時19歳だった羽生結弦さんが、史上初の大台超えとなる101.45点をマークした。

 日本男子初となる金メダルを大きくたぐり寄せた会心の演技に、同郷の佐藤駿選手は、テレビにくぎ付けになっていた。

「初めてオリンピックを意識した瞬間でした。いつか同じ舞台に立ちたい。オリンピックを目指すきっかけになりました」

佐藤駿選手は幼稚園時代に羽生さんからプレゼントされたペンダントを今も大切にしている(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 幼稚園時代にプレゼントされたペンダントは、今でも大切な宝物で、五輪代表が懸かる2025年12月の全日本選手権のときもホテルまで持参していた。

 佐藤選手は普段から大会前、羽生さんの演技を見てから本番に臨むことがルーティンになっているという。

「ジャンプはもちろん、プログラム全体を見て、自分が滑っているところを想像するようにしています」

 全日本のフリーの前には、羽生さんの演技の中でも一番のお気に入りという2019年グランプリ(GP)シリーズ・カナダ大会のフリー「Origin」の映像を目に焼き付けてから臨んだ。

「羽生さんの演技は全部好きなのですが、中でも、一番感動するというか、それを見ていると(自分の演技も)うまくいくのです」

 その言葉通り、フリーは会心の演技で1位となり、全日本初の表彰台となる総合2位。目標にしてきた五輪代表入りを決めた。

 幼少期は、羽生さんと同じアイスリンク仙台を拠点に練習を積んだ。

「すごく優しくしてもらいました」

 2019年に試合会場で会ったときには「頑張って」と激励を受けた。

「そこから自分も世界と戦っていこうと思えるようになりました」

 佐藤選手の武器は、全日本のフリーでも鮮やかに決めた4回転ルッツだ。羽生さんも2017年のGPシリーズ・ロシア杯で初成功を収めている高難度のジャンプ。切り札を携えて迎える五輪に「(羽生さんと)同じ舞台に立てるというのは夢のよう」と笑顔をみせる。

 五輪代表が発表された翌日の12月22日。東京都内で報道陣の囲み取材に応じた佐藤選手が、絶対王者として君臨した羽生さんの背中に少し近づくことができたことを感慨深く話す姿が印象的だった。