羽生さんが後輩に送ったエール
「先輩方の背中を見て、自分は育ってきた。今回は、自分が背中を見せる番。自分らしいエースの在り方で、しっかりと胸を張って、日本代表を背負っていきたい」
鍵山選手は佐藤選手と同様に行われた囲み取材の場で、日本男子の「エース論」に言及した。羽生さんが頂点に立った北京五輪の最終選考会を兼ねた全日本から4年。全日本2連覇を飾り、エースの称号を受け継いで、ミラノの地へ立つのが22歳の鍵山選手だ。
「ミラノ世代」のエースがシニアの世界で大きく飛躍したのが、初出場で銀メダルを獲得した2021年の世界選手権だ。
羽生さんのエールを受けたという鍵山優真選手(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
当時はシニアにデビューしたばかりの17歳。羽生さん、宇野昌磨さんと並んだ前年の全日本選手権直後の代表発表の会見では、鍵山選手は、まだ緊張を隠せなかった。持ち前の強気の姿勢から一転、控えめな言葉で意気込みを口にしたことを、羽生さんは見逃さなかった。そして、後輩への助言を求められると、こんな言葉を紡いだ。
「自分の気持ちに嘘をつこうとしていたので『そういうことはいらないよ』って。僕は彼の強さは、その負けん気の強さだったり、向上心だったり、勢いだと思っています。もちろんそれだけでは勝てないかもしれないけど、そこが今の一番の武器。そこは大事にしてほしいです」
鍵山選手はのちに「あの言葉をかけられた以降から、自分のネガティブな気持ちが一切なくなった」と語っている。
前回の北京五輪代表発表翌日の取材は、新型コロナウイルス禍のためにオンラインで行われた。しかし、画面越しであっても、羽生さんのエースの風格は十分に伝わるものだった。
「僕にとって五輪は発表会じゃなく、勝たなきゃいけない場所。強い決意を持って絶対に勝ちたいです」
鍵山選手は、そんな羽生さんを「常に勝ちを求め、完璧に勝つ姿というものをパフォーマンスだったり、インタビューだったり、行動だったりで見せてくれました。自分の中での『ザ・アスリート』の理想の姿が羽生くんです」と打ち明ける。