●TOPICS
- ⬛︎ 海外売上高約70%の安川電機が北九州にこだわる理由
- ⬛︎ ロボット、サーボモーター、インバーターを軸としたFA事業へのシフトで大きく成長
- ⬛︎ 製造業にしかできない「データの加工」で差別化を図る
- ⬛︎ 年功序列の撤廃と公平な評価で、働きがいある会社を目指す
1915年に北九州で創業した安川電機は、「電動機(モータ)とその応用」を事業領域として日本の製造業を支えてきた。炭鉱や官営八幡製鐵所への電機品供給で地歩を固め、産業用ロボット「MOTOMAN(モートマン)」を筆頭とするFA事業で大きく成長。現在、ACサーボモーターで世界シェア首位、インバーター、産業用ロボットも世界上位のシェアを獲得している。なぜ創業の地・北九州で事業を続けるのか、地方企業からグローバル企業へ進化できた背景は何か。早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏と日本CFO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏が、同社の強さの秘密を代表取締役会長の小笠原浩氏に聞く。
海外売上高約70%の安川電機が北九州にこだわる理由
入山章栄氏(以下、敬称略) 安川電機は今や日本を代表するグローバル企業で、売り上げも海外の方が大きいと伺っています。それでもこの北九州を拠点にされているのはなぜですか。
小笠原浩氏(以下、敬称略) 現状、海外売上高は約70%に達しています。これだけ海外比率が高いと、むしろ東京に本社を置く必然性があまりないのです。製造業は需要のそばに拠点を置いた方がいいですが、東京には顧客の本社はあっても、私たちの製品を納める工場がありません。海外の顧客を考えてみても、北九州ならアジアへのアクセスがいいですし、米国ほど離れた場所に行くとなると、北九州発と東京発の違いは誤差の範囲です。
入山 まさにその点が、日本のグローバル製造業のポイントだと思います。今は地方からそのまま世界につながれるので、東京にこだわる必要はありません。
小笠原 もう1つ、私たちは製造業ですから、本社と工場が近い方が意思決定や判断が圧倒的に早いのです。
日置圭介氏(以下、敬称略) ところで、小笠原さんが社長だった2022年に経営理念を整理されたと伺ったのですが、どのような意図がおありだったのですか。
小笠原 私が入社した1979年に創業者・安川第五郎の「創立の動機」が「社憲」として整理され、それから40年以上が経過していました。その間、社員が増えてグローバル化も進み、社内の状況がかなり変化していましたから、時期的に経営理念を再整理し、しっかり浸透させるタイミングだったということです。2022年は社長としての最後の年でしたので、いわば置き土産ですね。幸い、国内外を問わず、従業員の大半が納得して受け入れてくれました。
入山 最近は、トップが自ら海外の拠点で経営理念を説くタウンホールミーティングが注目されていますが、会長もおやりになるのですか。
小笠原 会長になってからはやっていません。その役目を担うのは、やはりCEOでしょう。私が再整理した経営理念とはいえ、現CEOが伝えないと、現場から見た求心力が落ちてしまいますから。
ロボット、サーボモーター、インバーターを軸としたFA事業へのシフトで大きく成長
入山 今後、ロボットやモーターが今まで以上に世界中で必要とされていく中で、安川電機は日本の未来を担うといっていい会社だと思います。なぜここまで強い会社になれたとお考えですか。
小笠原 1990年代後半から2000年ごろにかけて、重厚長大な会社が日本経済の衰退を見越し、海外進出を始めました。その際、私たちはどんな付加価値を出すべきなのかを議論し、FA(ファクトリーオートメーション)事業に大胆にシフトしました。つまり、モーターを起点として、ロボット、サーボモーター、インバーターの3本柱に絞ったのです。会社が強くなり始めたのは、その頃からだと思います。「世界一になれない製品はやらない」と腹をくくって製品を特化していく中で、それらがハマる市場が生まれて、大きく成長できたと。
入山 今でこそ産業用ロボットは大きな市場ですが、FAにかじを切った四半世紀前、「この市場は絶対に伸びる」という確信があったのですか。それとも、リスクを取って勝負しようと考えたのですか。
小笠原 それはマーケティングや経営学的な見方であって、ものづくりの会社としては、全てが「自分たちが差別化できる製品は何か?」という問いから始まります。「これから製造の自動化が進んでいくはず。ならば、うちにできるのはロボットだ」というだけの発想です。
ただ、方向性としては正しかったのですが、変化のスピードを読み違えました。日本の製造業が一気に自動化するだろうと思いきや、ロボットを導入せずに中国に進出し、安い労働力に頼った。結果、私たちの成長は想定していたより10年ほど遅れたと思います。それでも最終的に急成長できたのは、中国でさえ人手不足に陥ったからです。これが大きかった。
入山 今や世界中で賃上げや人手不足が進んでいますから、FA時代はこれからが本番でしょう。
小笠原 おっしゃるとおりですが、油断はできません。弊社の「MOTOMAN」のようなハンドリングロボットの場合、複数の関節部にモーターを組み込み、いかに複雑で緻密な動きをさせるかが真髄(技術的な核心)です。一方で、例えばペットボトルをここからそちらへ動かすだけであれば、高性能なロボットは必要ありません。そういうところを狙って中国系メーカーがどんどん進出してきて、すでに競争が激しくなり始めています。
日置 学習することで、技術レベルも精度も上がっていきます。
小笠原 そうです。だから、先行する私たちはいかに差別化するのかを考えなければいけません。スピードで差別化を図るならモーターだし、精度であればモーターを制御するソフト、動きになるとAIが関わってきます。今のところ、ロボットは指示どおりにしか動きませんが、これからはAIによって周囲の状況を判断し、自律的に動く方向に進化していくのは確実です。実際、当社より上位のレイヤーの企業がそこを狙って動き出しています。
製造業にしかできない「データの加工」で差別化を図る
日置 そういう中で、安川電機としては今後、どこをどう強化していこうとお考えですか。
小笠原 やはりモーターです。モーターは奥が深く、性能や精度を高めながら動作時のデータを集めていくことが重要です。上位のレイヤーの企業が狙ってくるのも、このデータの加工ですから、実際にロボットを作らなければ得られないデータをいかに加工するかが、製造業である私たちが差別化できる部分だと考えています。
入山 泥臭い製造業のアナログな力とデジタルの融合が日本企業の勝ち筋だと、私は思っています。コマツやDMG森精機はすでにその戦略で成果を出していますし、安川電機もそうではないですか。
小笠原 「デジタルツイン」といわれるように、今はデジタルとフィジカルを融合しようという動きがありますが、本格化はこれからでしょう。収益化については、まだ先の話になると思いますが、アクチュエーター(駆動装置)などの物理層を持っていないとロボットを動かせないので、そこは私たちの強みになると考えています。
入山 いわゆるデジタル人材を強化されているんですか。
小笠原 お答えするのが難しいのですが、まず何をもってデジタル人材と呼ぶのか、という問題があります。例えば、私から見ると、ソフトウエアを開発するプログラマーと現場でネジを回している直接工は、同じ人材です。
私たちは今、徹底してDXを進めていますが、DX推進のトップはデジタルとは無縁といっていいほどのいわゆる機械屋です。つまり、私の考えるデジタル人材とは、「今の理屈でいけばこんなことができる」とロジカルに整理できる人材なんですね。それをどう実現するかを考えるのは、別の人材に任せればいい。
これは経理から経営まで、全てに当てはまります。理系と文系の違いで説明するなら、実際に決まったことを積み上げて意思決定するのが理系人材で、現象から推論するのが文系の人材。私の考えるデジタル人材は、積み上げ型の理系人材です。
入山 少子化が進んでいる中で、日本でそういう人材を十分に確保できていますか。
小笠原 いえ、難しいですね。必然的に海外の人材も登用することになりますが、「コアは日本、周辺を海外で」という方針は当面、変わらないでしょう。
入山 海外企業の場合、本社機能やR&D(研究開発)を多国籍化している会社が少なくありません。一方でコマツもそうですが、コアは日本で固めてそれ以外の応用領域を海外で行うというスタンスは、日本の強いメーカーの特徴です。
小笠原 そうですね。実際、この施設(安川テクノロジーセンタ)に日本中の技術者を集めていますから。結局、コアであるモーターとその応用が柱なので、これを分散させてしまうと効率が悪いのです。収益はともかく、技術者同士のつながりが増えたことで、何を決めるのも早くなっているのは間違いありません。何か特別なことをしているわけではないですが、部門をまたぐような開発テーマを立てて各自の席を自由に動かしたりするなど、いろいろと工夫はしています。
入山 意図的に横串を通すのではなく、テーマセットやチーミングによって常に人材を動かし、アイデアを共有していくと。そういう組織の在り方は、とても大事だと思います。
年功序列の撤廃と公平な評価で、働きがいある会社を目指す
入山 企業文化や風土づくりは、何か意識されていますか。
小笠原 当社は、私が入社した頃から派閥や学閥が一切なく、名前を呼ぶ時にも「さんづけ」が当たり前でした。私の社長時代には、年功序列もほぼ撤廃しました。人事資料から学歴や年齢を削除し、管理職の給料やボーナスなどは基本的に資格と成果だけで査定しています。
決して外資系のようにしようと思ったわけではなく、働きがいのある会社を目指したかったのです。まずは公平に評価し、きちんと責任を持ってもらうことが、働きがいにつながっていくだろうと。
入山 素晴らしい取り組みですね。会長の話を伺っていると、常に未来志向でものごとを考えていらっしゃるように感じます。何年先までイメージされていますか。
小笠原 30年ですね。自分が生きていない未来を想像しながら、打つべき手を考えるのが楽しいんです。例えば、進化した空飛ぶクルマを思い描きながら、そこにロボットやサーボモーターをどう適用させていくかとか。絶対に想像どおりにはなりませんが(笑)。
日置 モーターというコアがあるからこそ、飛躍的な発想ができるのでしょう。
小笠原 モーターが安川電機のコアであることは、全従業員が深く理解しています。「回る/動かす」というシンプルな機構だからこそ、モーターは30年後も間違いなく存在しているはずです。そうであるなら、私たちの未来はどんな発想でモーターの機能と性能を拡張していけるかにかかっています。すでに医療や農業といった領域にも進出していますが、人がものを作っているところには必ず自動化の需要がありますから、夢のある方向へ適応していきたいですね。

