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  日本初となる腰掛け式水洗便器の製造で1917年に創立したTOTO。九州の焼き物文化と炭田という特性を背景に成長し、水まわり全般へと事業対象を広げてきた。中でも、1980年発売のウォシュレットは温水洗浄便座市場をけん引し、日本の衛生環境向上にも大きく貢献。現在では、世界17カ国・地域で事業を展開する。創立の地・北九州で世界に衛生文化を発信する同社の競争優位とは? 2025年4月に18代社長に就任したTOTO代表取締役社長執行役員の田村信也氏に、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏と日本CFO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏が迫った。

創立時の社名「東洋陶器」に込められた意味

入山章栄氏(以下、敬称略) TOTOはなぜ北九州で創立されたのですか。

田村信也氏(以下、敬称略) われわれはもともと「東洋陶器」という社名で創立しました。「日本陶器」ではないところが大事なところです。名付け親である初代社長の大倉和親は、創業前に欧州を訪れた際、欧州の清潔感ある「衛生陶器」と日本の「厠(かわや)/離れ」とのギャップに衝撃を受けたそうです。

 その衝撃が「進んだ西洋」に対して「遅れたアジア」という意識につながった。その結果、日本だけでなくアジア全体を視野に入れ、東洋陶器と名付けられたのです。北九州の小倉という場所を選んだのも、エネルギーの供給源である筑豊炭田があり、原料の入手も容易であったからというだけでなく、東洋に一番出ていきやすい門司港があったからです。これがもし日本陶器であれば、他の場所でもよかったはずです。

日置圭介氏(以下、敬称略) TOTOが属する森村グループでは、各社がそれぞれに事業を特化する「一社一業」というスタンスを掲げているのも特徴的です。その「突き詰めよう」という姿勢がいいですよね。

田村 衛生陶器は製造過程で変形しながら約13%縮小するため、出来上がりを狙いどおりの寸法にする設計が非常に難しい商品です。目指す寸法に仕上げるには、石を砕いて粉にし、粉を水に溶かして泥にし、その泥を型に入れて乾かして、最後は焼成し、焼く、さまざまな製造プロセスに熟練の技術が求められます。まさに職人技と経験値の世界であり、初代モデル完成までの試行錯誤は今でも語り草になっています。職人の皆さんが、われわれの製造技術のベースをノウハウかつ経験値として継承してきたわけです。

 一方で、AIを活用し、職人さんのノウハウや経験値を数値化・定量化して、経験に頼らずに再現できる状態を作っていくことも可能になってきました。職人技とAI活用が両立できる素晴らしい時代になっていくだろうと思っています。

入山 実はわが家ではいろいろとTOTO製品を使っているのですが、質感が素晴らしいです。これも職人技なのでしょうね。

田村 そうですね。加えて、完成後の検査も徹底しています。出来上がった衛生陶器を検査員がチェックするのですが、「ここがダメ」と指で示されても、その道のプロではない私にはどこがダメなのかが全く分かりません(笑)。

 出来上がってからNGになれば、それまでのコストが全て無駄になるので、当然業績に影響します。かといって検査を緩くしてしまうと、お客さまにご迷惑をかける。そういう意味で、検査員の力量は極めて重要です。

 工場見学に来られたお客さまの中には、そうしたNG品を安く売ってほしいとおっしゃる方もいますが、丁重にお断りしています。自分たちでNGとしたものが世に出回るのは、TOTOのブランド戦略として絶対に許されません。

競争優位の源泉は、こだわりのモノづくりと理念を体現した「人」

入山 伝統的な技術を守りながら、ウォシュレットのように革新的な製品の開発にも力を入れています。伝統と革新の両立はなかなか難しいところだと思いますが、どうバランスを取っているのでしょうか。

田村 私はそんなに難しいとは思っていません。「何を目指している会社なのか」ということが全てであって、創立時の記録には「西洋を凌駕(りょうが)する」と書いてあります。清潔さや快適さをとことん追い求めていく、と。ウォシュレットもトイレの水を渦巻き状に流すトルネード洗浄も、ただただ創立時から受け継いできた精神を追求した結果なんですね。

日置 そのように1つの方向に向かって突き進んでいくことに、多くの会社が苦労しています。

田村 大事なのは、やはり企業理念です。社外の方と話をすると、よく「同じ方向に向かうのが難しい。企業理念はあっても、社員は全然ピンときていない」とおっしゃるんですが、われわれの場合、海外の従業員を含めて全員が理念をよく理解していると思います。要はシンプルなんです。

 われわれの企業理念の根っこには、1つの思想があります。それは初代社長が2代目に送った手紙の1行目にある「どうしても親切が第一」という文言です。これは「どんなときも、相手が喜んで『ありがとう』といってくれることをやりましょう」という意味です。

 難しくないからこそ、全員が日々の業務の中で実践できます。社内ではもはや習慣化しており、新人も含めて誰もが自然に業務の中で理念を実践しています。改めて理念を確認した時に「あ、これのことか」と腑に落ちるようなケースも少なくありません。

「どうしても親切が第一」というのは、会社の目標でも業績目標でもなく、個人の日々の姿勢です。だから広く浸透しているのだと思います。

入山 TOTOの社員は基本的に親切であると。

田村 そうです。単純に何かしてあげたいし、「ありがとう」と言われると気持ちがいい。裏表のない、素直な人ばかりです。

 TOTOの強みは何か。そう問われたら、自慢できるモノづくり、アフターサービスをはじめとする丁寧な周辺サービス、そして何より「人」と答えます。この3つがそろって初めて「どうしても親切が第一」を実践する集団になれるのです。

 さらにいえば、商品をお客さまにお届けする流通の方々や、お客さまを訪問して設置作業などを行う工事店さんなど、関係者全員が親切に行動するからこそ、「TOTO、いいね」と思っていただけると。それが一番の誇りですし、そういう意味では、関わってくださる皆さんが宝なんですね。

入山 一方で、「親切にする」というのはコストがかかると思いますが、収益とのバランスはどうお考えですか。

田村 収益は、コストとプライスのバランスで決まります。コストというのは単純に「高い=悪い」ではありません。いかに価値あるサービスを提供できているかが大事なのであって、提供する価値とコストが見合っていれば、お客さまに受け入れてもらえます。収益性を考えつつ、価値の創造に努めるのが、まさに企業活動だと思いますね。

 市場に競合する商品がなければ、プライスを決める権利は販売する側にあります。コモディティー(汎用品)の場合はそうはいきません。だからこそ、新しい技術を開発したり新しい分野や市場に出ていったりして、いち早くトップシェアを取る、主導権を握ることが大事なんです。

世界展開でも変わらないTOTO流の価値提供

入山 日本のトイレは世界一だと思っていますが、現実的には、海外ではTOTOのトイレをあまり見かけません。その分、伸び代は大きいのではないですか。

田村 そう思います。ただ、われわれが初めて訪れるような国や地域では、TOTOの名が知られていないばかりか、衛生陶器という概念そのものがないケースがあります。そこからのスタートになるので当然、認知には膨大な時間と労力がかかります。

 衛生文化が浸透している国の場合、それぞれに自国の衛生陶器ブランドが存在し、現地の人たちはその製品をお使いです。どれだけTOTOの素晴らしさを言葉で説明したところで、ライバルに取って代わるのは難しい。

 そこで、まずは実際に使っていただくため、潜在的な顧客が集まる高級ホテルや国際空港にTOTOの製品を提案していきます。導入が決まったら、納める製品の一番目に付くところにTOTOのロゴを入れておく。これが新たな市場に参入する際の王道のアプローチです。実際に使って「いいな」と思っていただいてからが、本当のスタートです。

 日本と同様のモノづくりやサービスを提供してプライスにも納得いただくのが、海外展開の基本戦略です。大事なのは付加価値であって、われわれにしかできないモノづくりやサービスを徹底することで違いが出せるのだと考えています。

入山 日本が世界で成功しているのは、自動車を含めた製造業です。その理由はシンプルで、モノが全てを語ってくれるから。言葉や文化が壁になりません。

日置 TOTOの場合、そこに、親切さやこだわりが加わるわけですね。

田村 米国で、アフターサービスに伺う際、スタッフは屋内用の靴に履き替えて家の中に入ります。日本のように靴を脱ぐ国であれば、靴下を履き替える。それがマナーだと考えているからです。

 不快に思われるようなことはしない。逆に、喜んでくれそうなことがあれば率先してやる。例えば、トイレの修理に行って、すぐそばにある洗面台が汚れていたら、修理のついでに洗面台を磨いて帰るのがわれわれの「当たり前」です。そういったことも含めて、信用や信頼につながるのだと思っています。

入山 衛生文化が浸透していない新興市場では、一気に受け入れられる可能性が高いと思っていますが、今後の展望はいかがですか。

田村 おっしゃるとおり、新興市場でTOTOブランドが浸透するのは比較的早いと思います。ただ、日本でもウォシュレットが普及するまでにある程度の時間がかかりましたから、そこは覚悟しています。

 2024年以降、中国市場は苦戦続きでしたが、ようやく安定した成長が期待できそうな状態になってきました。米州市場では、2002年に第三者機関による大便器洗浄性能テストでトップ3に食い込みました。近年では、急速な伸びを見せる温水洗浄便座市場の中でウォシュレットの認知も拡大しており、長期的な成長が続きそうです。台湾やベトナムを筆頭とするアジアは2桁増で成長を続けていますし、欧州はまだまだ規模は小さいものの、軌道に乗りつつあります。加えて、新たな軸であるセラミック事業も半導体需要を追い風に急激に伸びています。誰よりも私自身がワクワクしているところです。