「モンスター」と呼ばれる井上尚弥選手(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 地上波のテレビが主体だった日本のボクシング中継は近年、定額制動画配信サービス(サブスク)が主流となる時代へと様変わりした。

 アマゾンプライムビデオは、2月24日のWBCバンタム級世界王者・中谷潤人選手(M・T)らのダブル世界戦などを独占生配信。1月に行われたスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥選手(大橋)の防衛戦を独占したのもNTTドコモの「Lemino」だ。

 一部無料による配信もあるが、サブスクでの試合中継が定着することでファイトマネーも押し上げられるなど、ボクシング興行に新たなマネーが流入してビジネス規模が膨らんでいる。お金を払わないとビッグマッチを見られないことにファンから不満の声も上がる一方、選手にとってはケタ違いのファイトマネーが動く本場・米国のような夢をつかめる時代が到来したともいえる。
 
 井上選手が所属し、プロモーターも務める大橋ボクシングジムの大橋秀行会長に、サブスクがボクシング興行にもたらした影響などを聞いた。2回に分けて掲載する。

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サブスクがボクシングビジネスの分岐点

──かつてボクシングの世界戦は地上波テレビの中継で高視聴率を獲得していました。しかし、最近は地上波からはほぼ姿を消し、サブスクでの中継が主流となっています。人気ボクサーや注目カードは視聴数が伸びることで、より多くのファイトマネーを手にできる可能性も出てきており、興行側もかなり恩恵を受けているのではないでしょうか。

大橋秀行会長(以下敬称略):サブスクでのネット中継が主流になってきたことは、ボクシングをビジネスとしてとらえたときに大きな分岐点といえます。昭和の時代には、プロレスの力道山がテレビ中継で日本中から人気を博していましたよね。テレビが普及したあの時代と同じくらいの衝撃的な出来事がいま、サブスクによって引き起こされていると思っています。

インタビューに応じる大橋秀行会長(写真:筆者撮影・横浜市内)

 アメリカでは20〜30年前から(ケーブルテレビなどで)ペイパービュー(PPV)の時代が訪れ、人気のボクサーが何十億円というケタ違いのファイトマネーを手にできるようになりました。日本でも10年くらい遅れて、そういう時代になると思っていましたので、むしろ遅かったくらいの印象です。

──日本でPPVが普及しにくい要因として、テレビは「無料でみるもの」という文化が根強いことが挙げられます。しかし近年は、プロ野球やサッカーなど他のスポーツでもサブスクでのネット配信が存在感を強めています。ボクシングでネット配信が主流となったきっかけは、何だったのでしょうか。