格下の選手に対戦相手が変更になるという“とばっちり”を受けた井上尚弥選手=写真は24年9月のドヘニー戦(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥選手(大橋)に、一部のファンが怒りの声をあげている。1月24日に東京・有明アリーナで行われる防衛戦の相手が、IBF&WBO同級1位サム・グッドマン選手(オーストラリア)からWBOスーパーバンタム級11位のキム・イェジョン選手(韓国)に変更されたからだ。チケットの払い戻しはなく、インターネット上には批判的な声も書き込まれている。

 防衛戦は当初、昨年12月24日に予定されていたが、グッドマン選手が来日前のスパーリングで左目上をカットしたために1カ月延期となっていた。その興行が、グッドマン選手の再びの負傷で中止となり、リザーブ選手(代役)として控えていたキム選手との対戦となったのだ。

 試合そのものは4団体統一の防衛戦として成立するものの、そもそもこの階級には井上選手の強敵になるような選手が見当たらない。そうした中で新たに相手となるキム選手は、グッドマン選手と比べても明らかな格下。井上選手は今年、春と秋に米ラスベガスとサウジアラビアでの海外興行が計画されており、貴重な国内マッチが“前代未聞”の事態で水を差された格好だ。

 井上選手にとっては“とばっちり”でしかない。常に勝利だけではなく、圧倒的な試合内容も求められ、期待に応えてきたモンスターは、今回はどんな試合でリング外の雑音を封じるか。最強の王者ゆえの苦悩を象徴づける一戦となりそうだ。

まさかの格下への対戦相手変更

「正直驚きましたが対戦相手を用意してくれていた大橋会長に感謝します。試合まで2週間を切りましたが切り替えられています。ファンの皆さんには大変申し訳なく思いますが、1月24日は応援よろしくお願いします。最高のパフォーマンスをお見せします」

24年10月、グッドマン選手との防衛戦が決まったが…(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

 井上選手は、対戦相手の変更が発表されるとSNSにこう決意を記した。

 井上選手は昨年末から挑戦者に振り回されてきた。グッドマン選手が当初の試合日だった24年12月24日の10日前の練習で左目上を裂傷。井上選手は相手陣営から打診された1カ月の延期を受け入れ、集中力を切らすことなく調整を続けてきた。報道によれば、1月8日の練習公開では体力的にも精神的にもきつい部分があったとしながら、「影響はない。仕上がり具合はすごくいいんじゃないかと思う」と万全な状態を強調していた。

 そこに降ってわいた相手選手の2度目のアクシデントによる中止と対戦相手の変更。大橋秀行会長が「50年で初めて」と苦笑いする異例の事態に見舞われた。