格下でも難しい試合に
井上選手は、米専門誌「ザ・リング」が選定する全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」において、昨年12月発表時で2位につけている。階級に関係ない強さを評価軸とする井上選手からすれば、強い対戦相手を倒すことでしか評価を高めていけない宿命を背負っており、苛立ちを募らせても不思議ではない。
こうした中で、格下相手とはいっても、ボクシングで勝つのは簡単ではないとされる。対戦相手の変更によって、気持ちを切り替え、モチベーションを立て直し、相手のデータを頭に入れ直す必要がある。その上、実力差がさらに開いたことで、圧倒的な試合内容まで求められる。
日本国内においても、井上選手の対戦は貴重な機会だった。25年は春に米ラスベガス、秋には初参戦のサウジアラビアと本格的に海外へ戦いの舞台を移すことも計画される。
現状のスーパーバンタム級には、強敵と呼べる選手は見当たらず、1つ上のフェザー級への転向が囁かれている。24年の「ザ・リング」のファイター・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀選手賞)にノミネートされていた中谷潤人選手(M・T)が階級を上げた上で井上選手と対戦することを望む声などが絶えない。
井上選手は際立つ強さゆえに課せられた使命とも向き合っていかなければならない。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。