対日輸出規制によるインフレ圧力が国民を苦しめるかもしれない。その不満が高市政権にはね返る可能性も(写真:共同通信)
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
中国政府は1月6日、軍民両用(デュアルユース)規制に基づいて日本への輸出規制を強化すると発表した。高市首相の存立危機事態発言に伴う経済圧力がまた新しい段階に入ることになる。
措置対象にレアアース(希土類)関連製品も含まれている可能性が争点となっている。レアアースの輸出制限と言えば、2010年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件において、日本側が折れる契機となった事案が思い返されるが、事態は現在の方がより根深そうだ。
当時は、税関での検査強化を通じて行われた行政指導レベルの措置であった。ラフに言えば、非公式な嫌がらせである。同種の措置は2012年に日本政府が尖閣諸島の国有化に踏み切った際にも見られた。
片や、今回はあくまで輸出管理法(2020年施行)等に基づいた公式の制裁措置である。表向きは「軍事転用防止の恐れがある」という言い分であり、一応は安全保障面から正当な措置ということになっている。
これは米国が対中半導体規制で用いているロジックと同じだ。「日本の自衛隊や同盟国(米国)の兵器に使われる恐れがあるため輸出を管理する」という理屈は筋が通っており、外交的に突き崩すのは難しいように思える。
中国商務省は「日本の指導者が台湾に関して公然と誤った発言をし、台湾海峡への武力介入の可能性を暗示した」との認識を明示しており、発言の謝罪と撤回がなければ認識が変わる理由も無さそうであるため、制裁も当面続くことが予想される。
なお、2010年の時は中国側の暴挙に悩まされる日本に対し国際的には同情的な雰囲気もあった。しかし、ベネズエラの一件を見ても分かるように、米国は「自分たちの勢力圏は自分たちで決める」という雰囲気を強めており、暗黙裡にロシアや中国もその行動規範で動きそうな未来も見える。
こうした「地政学リスクの局所化」が進んでいる今、他ブロックの摩擦に介入するほど他国に余裕は無い。しかも、今回は高市首相の安全保障観(に基づく発言)から始まっている話であり、より他国は介入しにくい構図にある。
昨年来、筆者は中国人の日本への渡航自粛が決定された際、制裁がエスカレートしていけば日銀の利上げを阻む理由となり、それが円安を促すリスクがあると論じてきた。高市政権の強硬姿勢と中国の経済威圧の応酬により、事態が長期化・構造化するとすれば、こうした展開は現実味を帯び始めているように思える。