インフレの加速は、収入源が限られる年金生活者を不安にさせる。(写真:umaruchan4678/Shutterstock.com)
食料品をはじめとする物価の上昇が止まらない。いまや欧米を上回る勢いでモノの値段が上がる一方で、年金不安は解消されていない。リタイア後の家計に不安を感じている人は多いが、自分の年金生活を具体的にイメージしたことがあるだろうか。実際に大きなお金がかかるのはどんな分野で、どんなところに注意が必要なのか——本稿では年金生活を送る先輩諸氏の体験談を紹介する。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
がん治療費の不安は解消したものの…
老後の暮らしでは医療費が不安という声が多い。実際のところはどうなのだろうか。意外なところで出費がかさむことも想定しておかねばならないようだ。
68歳の男性は、3年前に完全リタイアし、埼玉県内の自宅マンションに1歳下の妻と2人で暮らす。年金収入は2人合わせて年間350万円ほどだ。
男性は現役時代、定期的にマラソン大会に出場していた市民ランナーで、アルコールも一切口にせず、健康には少なからず自信があった。しかし、2024年に受けた自治体の検診で肺がんであることが分かり、衝撃を受けた。
「まさか自分がという思いが強かった。60代の医療費は現役時代と同じ3割負担。がん治療には金がかかると聞いていたので老後のための貯蓄が大きく減ってしまうのではないかと不安だった」
幸いがんは早期で、切除手術で1週間ほど専門病院に入院するだけで済んだ。
事前の精密検査や手術、入院費用などで100万円以上の医療費がかかったが、健康保険の高額療養費※の制度が適用され、加入していた民間の医療保険も下りたため、払った医療費以上の給付を手にしたという。
※:医療費の家計への負担を軽減するための制度で、同一月に支払う医療費に年齢や所得に応じて上限(自己負担限度額)を設けている。この男性の自己負担限度額は約5万7000円。
「がんの話をオープンにするようになったら、友人や元同僚にも結構がんサバイバーが多いことが分かった。診療ガイドラインに基づいた標準治療を受ける分には巨額の医療費がかからないことも学習できた。健康への過信に対する自戒の意味でも、いい経験になったと思う」
しかし、2025年にはまた別の医療費の問題が降りかかってきた。