着々とインフレ適応を進める家計。その動きは為替にどのような影響を与えるだろうか(提供:travelclock/イメージマート)
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(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

着実にインフレ適応を進めている家計

 12月17日、日銀が公表した2025年7〜9月期の資金循環統計(速報)によると、9月末時点で家計の金融資産残高は2286兆円と2四半期連続で過去最高を更新した。近年の傾向に漏れることはなく、外貨も含めたリスク性資産の評価額が押し上げられたことで絶対水準が膨らんでいる。

 例えば、前回の6月末時点から今回の9月末時点までの間に、日経平均株価指数は4万487円から4万4932円に、ドル/円相場は144円から148円に上昇している。後述するように、これらの相場環境を素直に反映し、外貨性資産や株式・出資金の比率がしっかり押し上げられている。

 なお、次回(2026年3月)公表の2025年12月末時点については日経平均株価指数が5万円台に乗せ、ドル/円相場は155円以上まで急伸していることを踏まえれば、3四半期連続での過去最高がヘッドラインとなるはずである。日本の家計部門は着実にインフレ適応を進めている。

 各項目の変化を確認しておこう(図表)。今回、象徴的な動意を示した項目はいくつかあるが、まず現預金(除く外貨預金)は歴史的な動きの節目に差し掛かっているように見受けられた。

 前回6月末時点の資金循環統計を議論した際、筆者は「【現金信仰の終焉】インフレ防衛で日本人の資産は株式や投資信託にシフト、家計金融資産に占める現預金は純流出」と題したコラムで、「日本の家計金融資産に関しては『半分が円の現預金』という構図が象徴的に語られてきたものだが、いよいよそれも変わろうとしている」と論じた。

 今回、報道においても金融資産全体に占める現預金の比率が49.1%と2007年9月末以来、18年ぶりに50%を割り込んだことが特筆されている。この現預金には外貨預金も含まれており、円建ての現預金に限れば、比率は48.8%とさらに低い(2007年9月末以来であることは同様)。円の購買力が劣化する中、ここから離れる動きが加速しているというのは非常に分かりやすい動きである。

 片や、リスク性資産の存在感は着実に増している。