「利上げなのに円安」は日銀のせいか(写真:ロイター/アフロ)
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(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

政治と市場、隘路を歩かされている日銀の苦悩

 12月18~19日に開催された日銀金融政策決定会合は短期金利(無担保コール翌日物)を従来の0.50%から0.75%へ+25bp引き上げた。既報の通り、実に30年ぶりの政策金利水準であり、名目価値に意味はないが、日本がデフレからインフレに切り替わってきていることを感じさせる象徴的な出来事にも思える。

 もちろん、公表文にある通り、「現在の実質金利がきわめて低い水準にある」という事実は変わっておらず、それゆえに円安相場も修正に至らなかった。

 公表文の付随資料「2025年12月金融政策決定会合での決定内容」では、「実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持」と記載され、赤字で「経済活動をしっかりとサポート」と強調された。

 その後にも「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整」と記載されており、あくまで「緩和度合いの調整であって引き締めではない」という基本認識が窺えたのは事実である。

 こうした文言からは「まだ緩和状態なのでこれからも引き締める」という市場へのメッセージと「引き締めたとはいえまだ緩和状態」という政治へのメッセージの二面性が見て取れ、隘路を歩かされている日銀の苦悩が透ける。

 なお、リフレ体制(黒田日銀)の後始末を強いられている植田体制はマイナス金利解除に始まり、30年ぶりの政策金利水準に至るまで、首尾よく匍匐(ほふく)前進している。毀誉褒貶はあれども、この正常化の歩み自体は評価されてしかるべきではないか。

 円安こそ止まっていないが、それは日銀に帰責する部分だけではなく、これをもって植田体制を批判するのはフェアではない。

 会合後、最も多かった問い合わせはやはり「利上げしたのになぜ円安になったのか」であった。上述したように、直感的には「まだ緩和的」という情報発信が前面に出ていたからということになるが、より本質的には高市政権の展開する強力なインフレ期待に対して+25bpの利上げでは追いつけないという事実に着目すべきだろう。