日銀の政策運営における最大の説明変数
もちろん、日銀の情報発信が円売り安心感を呼んだのも間違いない。
今回の会合は利上げ自体が既定路線となってきたこともあり、「今回で終わりではない」という期待をいかに醸成できるかが鍵と見られていた。そのための戦術として中立金利推計の引き上げが行われるとの観測もあったが、蓋を開けてみれば植田総裁からは「推計は相当なばらつきがあり、前もって特定は難しい」「必要に応じて再推計を試みる」と述べられるにとどまり、具体的な情報発信はなかった。
また、水準に触れる部分としては「利上げ後も『中立金利の下限に少し距離』」とも述べられていた。これは従前の下限(1.00%)に対し現在は0.75%なので、少し(25bp)距離があると解釈すべきだろう。要するに、今までと何も変わっておらず、「今回で終わりではない」という期待を盛り上げるには至らなかった。
実質ベースで見た円金利の低位安定が期待できそうな以上、円売りは続行される。12月初頭から繰り返された中立金利推計の修正にまつわる情報発信の意図はどこにあったのだろうか。
とはいえ、「1.00~2.50%」という中立金利推計の下限を1.50%まで引き上げたとしても、「推計レンジの下限」を「実務的な上限」と読み替える市場は「最大であと3回(+75bp)しかやらない」と邪推するため、円売りがすぐに戻ってきてしまう可能性はあった。
中立金利推計の改定や適宜公表も「しょせんは時間稼ぎの道具でしかない」と言えばそれまでであり、「やっぱり引っ込めることにした」というのは英断なのかもしれない。
歴史や諸外国の例を振り返っても為替市場の相手は際限がない。どのような説明を尽くしても現在の日銀の政策運営において最大の説明変数は為替であり、金融政策が通貨政策化している。
通貨政策化した時点で、自然利子率(≒中立金利)推計のような精緻で高尚な議論は意味を持ちにくく、政策決定は無慈悲な為替相場に隷属するしかなくなってしまう。「相場の玩具にされるくらいなら出さない」という考え方があったとしたら、それは賢明でもある。