大谷翔平選手が全国の小学校に寄贈したグラブ(写真:共同通信社)
  • 子どもの野球離れが止まらない。全日本軟式野球連盟によると、2023年度の小学生の野球人口(軟式野球登録選手数)は16万2380人と、2017年度から4万197人減っている。中学生も同様で5年間で2万9473人のマイナスだ。
  • 子どものスポーツ事情に詳しい尚美学園大学の田中充准教授は、子どもの野球離れの現状を「令和の子育てスタイルと指導方法などが合わなくなっている」と分析する。
  • 田中氏は、このまま野球人口が減っていくと、日本でも諸外国のように野球が「一部の人しか楽しめないスポーツ」になっていく可能性があると指摘する。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

怒号・叱責当たり前の指導法は令和キッズに合わない

──「巨人・大鵬・卵焼き」はすでに死語ですが、現代でも大谷翔平選手の活躍もあり、野球人気が拡大する要素はあるはずです。にもかかわらず、なぜ子どもの野球離れが進んでいるのでしょうか。

田中充・尚美学園大学准教授(以下、敬称略):子どもの野球離れという現象は、子育てスタイルの変化によるところが大きいです。

田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。

 現代の親が「習い事」としての野球を敬遠するようになった理由は3つあります。1つは、労力負担の重さです。昭和の大衆スポーツの代名詞である少年野球は、保護者も「一丸」となって子どもを支える必要がある、という文化が根強くあります。

 土日もグラウンドに顔を出さなければなりませんし、球拾いをする必要もある。最近はかなり変わってきましたが、お母さんに対して監督への「お茶くみ」を求める慣習もあります。一昔前までは「この監督はコーヒーの砂糖多め」「このコーチはブラック」など、コーヒーのテイストまで知っておく必要があったのですよ。

 現代の親は共働きが一般的で時間資源に限りがあります。自分の趣味を大事にしたいと考えている保護者も増えています。週末を子どもの野球だけに労力をかけられない/かけたくない、と思うようになってきているのです。