「保護者も一丸」はもう維持できない
田中:少年野球の運営システムは伝統的に、「PTA」に近いものになっています。少年野球の月謝相場は約3000円と、水泳やピアノ、英会話といった他の習い事の月謝が1万円ほどであることと比較しても破格の安さです。
この3000円のうち、監督・コーチの報酬は含まれていないことが多く、彼らはほとんどボランティア状態で指導しています。月謝の使い道としてはグラウンド確保料やイベントの積立資金として活用されることが多いです。
監督・コーチがボランティアで子どもを指導する代わりに、「父親はグラウンドで球を拾う」「母親はチームのホームページを確認して日程管理をする」など保護者も関与しなければならない仕組みになっているのです。
共働きで時間もなく、週末に残っているエネルギーも少ない今の親世代は、野球独特の集団主義を敬遠している、というトレンドは確かにあると思います。
もう一点、野球がもはや大衆スポーツではなくなっていることも時代の流れとして指摘するべき重要な視点です。
そもそも、子どもに習い事としてスポーツをやらせる親にとって、スポーツの選択基準は「親や兄弟がそのスポーツをやっていた」というもの。柔道や空手といった武道やラグビーなどのコアスポーツを習い事として選ぶ子どもは大体がこのパターンに当てはまります。
ただ、野球は長らくそうした理由ではなく「身近に野球との接点があるから」という理由で選ばれてきました。地上波でも野球中継が毎日のように放映されていましたし、近所の公園や学校のグラウンドに足を運べば近所のお兄ちゃんが野球をやっている。
そうした状況が現在は大きく変化しました。野球中継はBSかCSでしかやっていないし、近所の公園でキャッチボールをしている子どもも少なくなっています。成長期に野球と触れる機会そのものがなくなってきているのです。
──野球は大衆スポーツだったことに加え、「野球をやらせて厳しい練習に耐えれば、人間的な成長につながる」と考えていた親も多かったのではないかと思います。