窪田等氏の声は、葉加瀬太郎氏の作曲したオープニング曲と合わせて番組のトレードマークになっている(写真:gnepphoto/shutterstock)窪田等氏の声は、葉加瀬太郎氏の作曲したオープニング曲と合わせて番組のトレードマークになっている(写真:gnepphoto/shutterstock)

 人間ドキュメンタリー『情熱大陸』(MBSテレビ)のナレーターとして知られる窪田等氏は、長年テレビ番組のナレーターを務めてきた。窪田氏の声は、葉加瀬太郎氏の作曲したオープニング曲と合わせて番組のトレードマークと言える。どんなことを考えながら、何にこだわりナレーションを吹き込んでいるのか。『唯一無二の「声」と「間」で紡ぐ 情熱が伝わる言葉の力』(KADOKAWA)を上梓した窪田等氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──25周年を迎えたテレビ番組『情熱大陸』について書かれています。この番組のナレーションは、どのような経緯で担当されるようになったのでしょうか?

窪田等氏(以下、窪田):かつてF1番組のナレーションをしていた時に、F1が好きなMBSのプロデューサーが私のナレーションを聞き、「この声を使ってみたい」と思ったそうです。葉加瀬太郎さんに『情熱大陸』の曲作りをオファーした時も、プロデューサーの頭の中にはF1のイメージがあったそうです。

『情熱大陸』は人間ドキュメンタリーですから、ナレーションにはあまりおふざけがありません。それが自分の仕事のやり方と合っていたのかもしれません。

 私は大騒ぎしたり、声を張り上げたりするナレーションがそんなに得意なほうではありません。その点、対象に寄り添っていく人間ドキュメンタリーは好きです。番組を長くやらせてもらったことで、余計に愛着も湧いています。

 この番組のナレーションをずっと続けてきた影響で、私に来る仕事もだんだん変わってきました。あの番組のおかげで、私の声は誠実そうだと捉えられるようになり、一般企業から「うちの会社の動画に窪田さんの声でナレーションを入れてほしい」という仕事のオファーが増えました。

──ナレーションの台本は、録音する前に、ディレクターと相談しながらご自身で直していくと書かれています。

窪田:作家さんが映像に合わせて台本を作ってくださいます。台本にはタイムが書いてあり、ディレクターがそのタイミングでキューを出して私が話す。

 ただ、音楽が入ると、ナレーションを入れるタイミングを少しズラしてみたくなることがあります。

 この番組の作家さんはベテランで、とても上手な方ですから、文句のつけようのない文章で台本が構成されています。読みやすいし、流れもいい。

 それでも、映像に合わせて読んでいくと、少し工夫を加えることで、より分かりやすくできそうな部分が見えてくる。そういう時は、「ここがちょっと分からない」と遠慮なく言うようにしています。

「ここは誰の声なの?」や「こんな話してしましたっけ?」など、次々疑問点を確認していくのです。

 こうして違和感を指摘して、ディレクターさんと話しながら、部分的に書き直していく。私はこの番組の最初の視聴者ですから、自分に分かるか、自分がどう感じるかを大切にしたいと思っています。番組サイドもちゃんと疑問に答えてナレーションを変えてくれるので、やっていて楽しいですよね。

 作家さんは、私のナレーションをイメージして台本を書いてくれていますから、私たちならではの台本です。それでも、今まで何も台本を直さなかった回は一度もありません。実際に映像に声を入れていくと、必ず直したい部分が出てくる。それはこの番組に限りません。長年やって台本を少しも直さなかった仕事はコマーシャルくらいです。

──窪田さんがナレーションをされている『情熱大陸』と『THEフィッシング』(テレビ大阪・テレビ東京系列)という釣り番組の話が、本書には数多く登場します。この2つの番組では、異なる部分にこだわりがあるという印象を受けました。