
(山中 俊之:著述家/コラムニスト)
筆者は、1990年代にサウジアラビアの日本大使館に勤務していた。サルマン現国王は当時リヤド州知事であり、日本大使館の天皇誕生日のレセプションには必ず参加していた。
大使公邸の玄関で、丹波實・駐サウジアラビア大使やその他の大使館員と共にお出迎えしたことを思い出す(現在の実力者、ムハンマド皇太子は当時10歳程度の少年であり同行していることはなかったが)。
当時のサウジアラビアは、中東の大国ではあっても、中東以外の外交交渉で主要な役割を果たすことはほぼなかったと思う。
3月に入ってウクライナ停戦に向けた米露、米ウクライナの交渉が行われている。その舞台になっているのがサウジアラビアだ。トランプ米大統領とプーチン露大統領の会談もいずれサウジアラビアで実施されると見られている。
読者の中には、なぜサウジアラビアで会談が行われているのかと疑問に思った方も多いかもしれない。
サウジアラビアは、聖地メッカとメディナを抱えるイスラム教の「宗主国」であり、中東アラブ諸国においては大きな影響力を持っているが、ロシアやウクライナとの地理的、文化的な距離は大きい。
しかも、3月はイスラム教のラマダン(断食月)である。通常であれば重要な外交交渉は避けたい時期である。にもかかわらず、なぜサウジアラビアでの実施なのだろうか。そこには、以下のようなサウジアラビアの3つの野望が見え隠れする。