軍事支援を考えると、ウクライナのゼレンスキー大統領は米国の意向には逆らえない(写真:ロイター/アフロ)
軍事支援を考えると、ウクライナのゼレンスキー大統領は米国の意向には逆らえない(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカ、ロシア、ウクライナをめぐる交渉はどこへ向かっているのか。ウクライナ戦争に関して発信を続ける英エセックス大学政治学部のナターシャ・リンドシュテット教授に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──2月28日に激しく口論を展開したトランプ大統領とゼレンスキー大統領ですが、3月19日に両者は電話会談を行い、ゼレンスキー氏はトランプ氏と「前向き」で「率直」かつ「非常に本質的」な話し合いをしたと述べました。

ナターシャ・リンドシュテット氏(以下、リンドシュテット):今回の電話会談がうまくいったのは、フランスのマクロン大統領やイギリスのスターマー首相が「関係を改善すべきだ」とゼレンスキー大統領を強く説得したからです。アメリカの支援は戦争継続には欠かせませんが、いがみ合えばそれを失う事態になりかねません。

 ゼレンスキー大統領はトランプ大統領の感情により配慮して、これまでと現在の支援に感謝を表明し、アメリカの提案をより受け入れる姿勢に切り替えて、なんとしても一緒にやっていきたいという姿勢を見せました。

 同時に、トランプ大統領の耳にウクライナ側の考え方や問題意識を入れています。その結果、見事にトランプ大統領はウクライナに同情の念を持つようになりました。

 かつてトランプ大統領は、ロシアの見方でしか状況を把握していませんでした。これはつまり、戦争を始めたのはウクライナで、ロシアは自分たちの安全保障のために戦っている、という考え方です。

──3月18日には、トランプ大統領とプーチン大統領が2度目の電話会談を行いました。プーチン氏は1時間も約束の時間に遅刻したうえに、トランプ大統領が提案した30日間の全面停戦は受け入れませんでしたが、エネルギー施設への攻撃を30日間停止すると決めました。この電話会談をどう見ますか?

リンドシュテット:この会談は非常に興味深かったですね。まずプーチンは会談に遅れてきました。彼はこうした遅刻を、欧州のリーダーたちとの会談で繰り返してきました。これは一種のパワープレーです。「俺が一番重要な存在なのだ」「お前たちは俺のために待たなければならない」と世界に見せつけているのです。

 ロシアの同盟国のリーダーたちも、一種の駆け引きとして、情勢に応じて意図的な遅刻をむしろプーチン大統領に対して仕掛けたことがあります。トルコのエルドアン大統領、キルギス共和国のジャパロフ大統領、カタールのタミーム首相などもプーチン大統領との会談に遅刻しています。

 つまり、遅刻自体が立場を表明するメッセージを含んでいるということです。ただ、だからといって、プーチン大統領はトランプ大統領を外交上ないがしろにすることはできません。アメリカに見放される状況は、彼にとってはコストを伴います。

 プーチン大統領は、強いところを見せる必要があり、何かを諦めたくもありません。そこで、エネルギー施設への攻撃停止を譲りました。

 実は、これはロシアにとっても利益のあることです。ウクライナのエネルギーインフラは、ロシアにとっても失えばダメージがあります。そのように限定的にトランプ大統領の提案を受け入れることで、トランプ大統領にも花を待たせ、関係を構築しようとしているのです。

──あまりアメリカに合わせると、ウクライナは不利な形で停戦に持ち込まれてしまう可能性があるようにも思いますが、この点についてはいかがでしょうか。