
アメリカはウクライナに対して、これまでの支援の見返りに5000億ドル分のレアアースの提供を求め、ウクライナは同意した。ところが、後にトランプ政権は将来的にウクライナの鉱物資源権益の5割を米国に与える協定に署名を要求、ゼレンスキー大統領は拒否した。その後、トランプ大統領はゼレンスキー大統領を独裁者呼ばわりして痛烈に批判した。この状況をどう理解したらいいのか。米サウスフロリダ大学准教授(専門は東ヨーロッパの政治と国際関係)のタチアナ ・クラケヴィッチ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──トランプ氏は、プーチン大統領と2月12日に長時間の電話会談を行いました。その後、トランプ大統領はゼレンスキー大統領を批判的に語っています。トランプ大統領がロシア寄りの姿勢を見せているようにも見えます。
タチアナ ・クラケヴィッチ氏(以下、クラケヴィッチ):そうした動きとほぼ同じタイミングの2月18日に、アメリカとロシアの高官がサウジアラビアで協議しました。交渉再開を始めるための会議です。
その後の元CBS記者のキャサリン・ヘリッジ氏とのインタビューで、協議に参加したマルコ・ルビオ国務長官は「平和を実現できるかもしれないし、できないかもしれない」といった趣旨の発言をしました。ロシアの方針や意向がまだ明らかになっていないからです。
アメリカはロシア寄りなのではなく、アメリカ寄りです。アメリカにとっての主要な敵は中国であり、欧州とは同盟関係です。これが前提で、すべては一種の駆け引きでしかありません。
トランプ大統領はたしかにさまざまな発言をしていますが、ゼレンスキー大統領は個人間の感情のもつれとは受け止めていないと思います。過激な発言があるから関係や交渉が破綻するとは思えません。
──アメリカからの援助と資源の取引の話をウクライナは断っています。アメリカはウクライナがとても受け入れることができないような提案をあえてすることで、ウクライナに戦争の継続をあきらめさせようとしているようにも見えます。
クラケヴィッチ:トランプ大統領は、大統領選から一貫してこの戦争を早期に終わらせると語ってきました。そして今、国内政治と国際政治の狭間で公約を実現しようと努力している。
しかし、2014年に限定的なロシアの侵攻があり、2022年から続いているこの戦争は2014年の拡大版です。ウクライナの将来の安全が保障される内容とは思えないから、ゼレンスキー大統領はトランプ政権の取引には乗りませんでした。経済援助の継続程度の提案であって、ウクライナが必要とする安全保障の支援としては不十分なのです。
ただ私は、どこかの時点で両国は折り合いをつけて取引をすると思いますし、そこからほどなくして停戦合意が締結される可能性はあると思います。