(英エコノミスト誌 2025年2月22日号)

ウクライナを訪問しゼレンスキー大統領と会談した米国のキース・ケロッグ特使(2月20日、写真:REX/アフロ)

欧州は「鉄のカーテン」が下りた時以来の重苦しい週をすごした。その意味するところはまだ十分に理解されていない。

 欧州にとってこの1週間は「鉄のカーテン」が下りた時以来の重苦しいものとなった。

 ウクライナは裏切られつつあり、ロシアの地位が回復されようとしている。

 そしてドナルド・トランプ大統領の下では、米国が戦時に欧州の支援に来ることを当てにできなくなった。

 欧州の安全保障にとってはまさに由々しき事態だが、それが何をもたらすかを欧州大陸の指導者や国民はまだ十分に理解できていない。

 旧世界には、無法の時代にハードパワーを行使する方法を学べる短期集中コースが必要だ。

 大急ぎで学ばなければ、「新しい世界無秩序」の餌食になる。

トランプとプーチンが壊す世界秩序

 米国のJ・D・バンス副大統領は先日ミュンヘンで演説した際、欧州は自堕落で非民主的だと嘲笑した。

 上品なワインと古い建造物と福祉手当の本家であるこの地域にとって、これは屈辱の味見でしかなかった。

 2月18日にサウジアラビアの首都リヤドで正式に始まったホワイトハウスとクレムリンの和平交渉から、欧州の政治指導者は排除された。

 しかし、いま始まりつつある危機は、侮辱や外交儀礼をはるかに超える次元のものだ。

 トランプ大統領は、戦争の責任はウクライナにあるという誤った主張をしており、ウクライナを見放す用意ができているように見える。

 ウォロディミル・ゼレンスキー大統領を「独裁者」呼ばわりし、「速く動いた方がいい、さもないと国がなくなる」と警告している。

 米国は、ウクライナが新しい武器を手に入れる権利を制限する貧弱な安全保証しか付されない不安定な停戦をウクライナに押しつけようとしているのかもしれない。

 これだけでも十分にひどい話だが、欧州にとって最悪の悪夢はウクライナ問題よりスケールが大きい。

 トランプ氏はウラジーミル・プーチン大統領を孤立させる年来の方針を捨て、その名誉を回復させるつもりでいる。

 米国が手にする明らかな地政学的利益など何一つないのに、ロシアとの外交関係の修復を図ろうとしている。

 トランプ氏は近いうちに派手な首脳会談でもてなされるかもしれない。

 マルコ・ルビオ国務長官はリヤドで譲歩を提案し、両国の協力や「歴史的な経済・投資機会」についてまくし立てた(「トランプタワー赤の広場」でも造るつもりなのだろうか)。