(英エコノミスト誌 2025年2月8日号)

大統領執務室で話をするイーロン・マスク氏(2月11日、写真:ロイター/アフロ)

マスク氏の実行部隊にはまだ10代の若者もいる。

 深夜零時を回ったばかりの2月3日未明、イーロン・マスク氏は自分が米連邦政府にしていることを説明するために「X(旧ツイッター)」に登場した。

 同じくXという名前の4歳の息子の足音が聞こえるなかで、大きな声で話さなければならなかった。

 マスク氏はまず、官僚は非合法な「政府の第4府」(行政府、立法府、司法府に続く権力機構)を構成していると論じた。

 そして米国国際開発庁(USAID)をやり玉に挙げ、マルクス主義者や犯罪者に納税者の血税を送る装置でしかないと切り捨てた。

 さらに、自分はドナルド・トランプ大統領から全面的な支持を得ており、「この組織を閉鎖する」と明言した。

 USAIDの存在は連邦議会によって命じられたものであるにもかかわらず、だ。後にマスク氏は週末を利用して「USAIDを粉砕機に投入した」と投稿している。

USAID解体、ニクソンの比ではない暴挙

 マスク氏が話をしている最中にも、首都ワシントンに置かれたUSAID本部の職員は翌朝出勤しないよう命じられていた。

 また、USAIDが「組織再編」を進める間はマルコ・ルビオ国務長官が局長代理を務めるとの発表も2月3日のうちに行われた。

 だが、ルビオ氏が率いるはずの組織は、すでにほとんど姿を消している。

 2月4日までには、USAIDのウエブサイトも、週末までに常勤職員全員を休職にすると告知する1文だけになっていた。外国にいる職員も1カ月以内に米国に戻ってくるという。

 USAIDの解体は、政府全体についてマスク氏が考えていると思しき計画の最も劇的な事例だ。

 この計画は企業経営者としてのマスク氏の作戦資料を参考にしている。

 つい2年ほど前、マスク氏はすったもんだの末、ツイッターを440億ドルで買収した。

 そしてその後の数カ月間の大半をサンフランシスコにあるツイッター本社で過ごし、従業員数を約8割削減した。

 従業員の3分の1は買収を受け入れ、受け入れなかった人の多くは解雇された。

 なかには、ストックオプションが付与されないように即座に解雇された上級幹部もいた。

 誰のツイッターアカウントを停止するかという問題も含め、あらゆる意思決定が直接マスク氏に委ねられた。

 そしてマスク氏は今、連邦政府予算を1兆ドル――裁量的支出の半分以上――カットする試みの一環として、200万人超の連邦政府職員を相手に同じことをやろうとしている。

 メリーランド大学公共政策大学院のドナルド・ケトル氏によれば、こんなことは過去に例がない。

「激しさを10点満点で評価するなら、おおよそ145点だ。グラフにはとても収まらない」と同氏は言う。

 自分には法律など適用されないと言わんばかりの統治を行った米国大統領は、最近で言えばリチャード・ニクソンだが、「今回はニクソンがやろうとしたことのはるか上を行っている」。