(英エコノミスト誌 2025年2月8日号)

イデオロギーと市場の油断、歳入拡大の必要性がまだ関税の大幅引き上げにつながるかもしれない。
小さな獲物を手に入れるために、言うことを聞かなければひどい目に遭わせるぞと脅迫することがディール(取引)の交渉を意味するのであれば、ドナルド・トランプ氏はその道の達人だ。
隣国のカナダとメキシコに対し、発動されれば部品や製品が北米大陸の国境を行き来しながら進められる自動車生産が危うくなっていた25%の関税をかけると脅した末に、2月3日になって30日間の猶予を与えた。
大統領がその見返りに得たのは、両国による国境警備の小幅な強化だった。メキシコが兵士を1万人追加投入するとか、昔の約束の一部を改めて交わすとか、そういったことだ。
史上最もばかげた貿易戦争は終わっていない
「史上最もばかばかしい貿易戦争」は史上最短のそれでもあったのか。投資家はそう思っているようだ。
投資家は何カ月も前から、トランプ氏の脅しは交渉上の策略にすぎないと見ていた。
発動が間近に迫ると、米国株の代表的な指標であるS&P500株価指数は3%急落した。
だが、メキシコとの最初のディールがまとまってからは落ち着きを取り戻し、下落幅は半分以下に縮まった。
残念ながら、この動きは慢心のように見える。
トランプ氏が貿易交渉で見せる強気な態度は駆け引きの手段だと結論づけるのは誤りだ。恐らく、これは始まりにすぎない。
一つには、中国からのすべての輸入品に10%の関税をかける施策は本当に実行に移された。
これにより、対中国の関税率の平均はこれまでの1.5倍超に跳ね上がる。中国は報復措置を発表しており、こちらは2月10日に発動される。
トランプ氏はさらにパンチを繰り出すと言明している。
そのなかには、欧州連合(EU)や台湾への脅迫を実行に移すことも含まれているかもしれない。