(英エコノミスト誌 2025年1月25日号)

トランプ大統領の返り咲きで百数十年ぶりに帝国主義者の合衆国大統領が誕生した。
ドナルド・トランプ氏は次に何をするか――。共和党の大統領候補の本命になってから10年経った今でも、これは切迫感が漂う問いだ。
いろいろなことに気を取られる時代にあって、トランプ氏は人々の関心を集めることにたぐいまれなる才能を発揮する。
大統領の権力に対する考え方を変えることにおいても同様だ。
2期目の大統領就任式は米連邦議会議事堂のドームの下にある大広間「ロタンダ」で行われた。
4年前に同氏の支持者らが乱入し、警察官たちの顔を殴ったのと全く同じ場所だ。
その暴徒らに恩赦を与えるために大統領が1月20日に行使した権限は、実は国をまとめるために考案されたもので、もともとは大統領の支持者(あるいは退任する大統領の家族)ではなく、政敵を赦す仕組みだった。
だが、これは法律ではなく、「しきたり」だった。そしてトランプ氏が権力を握ったことで、しきたりは終わりを迎えた。
どんな規範にも縛られない自由な国に
歴史家の間には、長い19世紀は(第1次世界大戦が始まった)1914年に終わったとの見方がある。
その意味では、20世紀が正確にいつ終わったかはまだ議論の余地がある。だが、終わったことは間違いない。
トランプ氏は今でも、連邦主義や裁判所を含む米国最古の制度機関の一部に縛られている。
だが、比較的新しいものについては、多くの縛りをお払い箱にした。ウォーターゲート事件後の統治改革はもう適用されない。
1945年以降のがれきの中から生まれた、米国は慈悲深い超大国であるべきだという合意も失われた。
トランプ氏はそれでも満足しておらず、米国を種々の規範、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)、官僚主義、そして場合によっては法律というくびきからも解き放ちたいと考えている。
その結果残るのは旧くて新しいもの、すなわち全米を鉄道で結ぼうとした激動の時代のイデオロギーと火星に星条旗を立てるという野望の合成物だ。
フロンティア(辺境)とは他国の領土を奪うなどして常に拡張すべきものだという考え方が生まれたのは19世紀のことだった。
トランプ氏は就任演説でパナマ運河を「取り戻す」とぶち上げた。
そして米国は「成長する国」、「我々の富を増やし、我々の領土を拡張する国」でなければならないと付け加えた。
一過性の情熱ゆえの言葉だったのかもしれないが、そんなことを口にした大統領は過去100年間で一人もいなかった。
また、トランプ氏が演説で言及した前任者は一人だけで、それは1897年に就任した「偉大な大統領」ウィリアム・マッキンリーだった。
トランプ氏は米国大統領の伝記など読まない。
だから(大統領と大統領夫人はそれぞれに自身のミームコインを立ち上げているとはいえ)金銀複本位制のような貨幣制度を再び争点にしようとしているわけではない。
だが、これはなかなか示唆に富む選択だった。