(英エコノミスト誌 2025年1月18日号)

世界に対する超大国のアプローチが間もなく根底から覆る。
ドナルド・トランプ氏に批判的な人々はよく、同氏の下品な振る舞いや孤立主義を批判してきた。
しかし、1月20日の大統領就任式の前から、その程度の言葉では2期目のトランプ政権がどんな姿になりそうかをとても語りきれないことが明らかになっている。
就任式が近づくなかで、トランプ氏は中東・ガザ地区の停戦と段階的な人質解放を後押しした。
タブーを破り、北極圏の戦略上重要な位置にあり鉱物資源にも恵まれているグリーンランドを手に入れたいと言い出した。
2期目のトランプ政権は1期目以上に破壊的になるだけでなく、第2次世界大戦後の米国を支配してきた外交政策のビジョンも根こそぎ変えてしまうだろう。
米国の力に伴う責任を放棄
米国の政治指導者たちは数十年間にわたり、米国の力には、民主主義と紛争なき国境、そして普遍的価値観によって安定かつ穏やかになった世界に欠かせない守護者としての責任が伴うと述べてきた。
トランプ氏はこの価値観を捨て去り、自国の力を強化して利用することに照準を合わせていく。
そのアプローチの仕方は中東、ウクライナ、および中国との冷戦によって試され、確立されていくのだろう。
これら3つの舞台は、トランプ氏が過去との決別にどのように駆り立てられているかをそれぞれに示してくれている。
中東ではオーソドックスではない手法が、ウクライナでは影響力の蓄積とその日和見的な利用が、そして中国では力こそが平和をもたらすという信念が原動力になっている。
中東の一件はトランプ氏の予測不可能性を見事に物語っている。
イスラエルとパレスチナがガザ地区をめぐる合意についにたどり着いたのは、合意できなければ「中東に地獄が訪れる」とトランプ氏が脅して期限を設定したためだった。
この合意を次の局面に進めるためには、トランプ氏が今後も圧力をかけ続ける必要がある。
優位に立つ手段として「マッドマン(狂人)」のように振る舞うことに着目した大統領は、リチャード・ニクソン以来だ。