中国の習近平国家主席(1月20日撮影、写真:新華社/アフロ)
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(英エコノミスト誌 2026年1月24日号)

押し返せば通商協定や台湾問題での前進が危うくなる恐れがある。

 昨年の地政学的な実績を振り返れば、中国の習近平国家主席には上機嫌になる理由があった。

 米国との貿易戦争では相手のドナルド・トランプ大統領をにらみ倒した。軍事パレードでは新しい世界秩序のビジョンを提示した。

 そして、パナマ運河の港湾を管理する香港企業を追い出す取り組みを行き詰まらせた。

 今日、世界は習氏の不安を強くかき立てているように見える。

 米国がベネズエラのニコラス・マドゥロ氏を拘束したことで、中国は南米で最も親しいパートナーであると同時にこの地域で最大の武器の買い手を奪われた。

 中国が輸入する原油の約4%にも影響が及ぶうえ、およそ100億ドルの借款の棒引きを強いられる恐れも生じている。

 西半球における中国のプレゼンスを抑制するトランプ氏の脅威は、港湾、人工衛星向け地上局、数百億ドル規模の貿易取引など、中国のほかの権益もリスクにさらしている。

 一方、イランでは米国主導の制裁と軍事的脅威を背景にした社会不安が別の独裁体制を揺さぶっている。イランは昨年、中国が輸入した石油の12%を供給しており、中東における中国の影響力を支える存在でもある。

習近平主席のジレンマ

 習氏は恐らく、トランプ氏の冒険主義が裏目に出て、米国がいくつもの危機に巻き込まれ、トランプ氏が中国どころではなくなることを期待しているのだろう。

 もし米国がグリーンランド奪取の取り組みを再開すれば、中国はそれによって北大西洋条約機構(NATO)と米国・欧州間の関係に及ぶ(恐らく致命的な)ダメージに歓喜するはずだ。

 だが、中国も西側の米国の同盟国と同様に、トランプ氏をなだめても穏健な態度を取ってくれる保証はないことを承知している。

 米国の意図の確実性が高まらない限り、中国の利益をこれ以上犠牲にすることには、習氏も気が進まないだろう。

 したがって習氏は、馴染みのないジレンマに直面している。

 本土から遠く離れた場所での権益を守るために、米国からの威圧を強く跳ね返すべきなのか。それとも、もっと優先順位の高いテーマ――経済と台湾統一への前進――に寄与するディール(取引)がトランプ氏と交わされることを期待して、全地球的な野望をひとまず後退させるべきなのか――。

 米中の首脳は今年、少なくとも3回顔を合わせる可能性があり、4月には北京で首脳会談が予定されている。

 中国は軍事力を増強させているものの、中南米や中東で武力介入をやってのけるほどの力はない。友好国の生き残りを保証するのに十分な量の武器を供給する力もない。

 中国から両地域への武器輸出は、中国による武器販売額の世界合計のごく一部を占めるにとどまる。

 これを拡大させるには時間がかかるし、買い手が多額の支払いを行うか、中国としては認めたくない規模の借り入れを行う必要もある。

 おまけに、中国の武器を南米で最も多く購入していたベネズエラは、今ではほかの見込み客が警戒心を抱くきっかけになっている。

 マドゥロ氏が捕らえられた時、据え付けられていた中国製の防空システムがきちんと作動していなかったと見られるからだ。