全米小売協会のイベント「NRF2026」に出展したAWS(ニューヨークで1月12日、写真:ロイター/アフロ)

これまでと違った形のクラウドサービス

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 1月中旬、クラウド世界最大手の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、欧州向けの独立クラウド「AWS欧州ソブリンクラウド」の一般提供を開始した

 これは、データの管理権限を特定の地域が自ら制御し、デジタル上の主権(デジタル主権)を確保するための独自のクラウド基盤である。

 これまでのクラウドサービスとは異なり、既存のAWSリージョン(地域拠点)から物理的、かつ論理的に完全に切り離されている。

 運用はEU(欧州連合)居住者のみが担い、システムの維持に必要なソースコードへの独立したアクセス権も確保された。外部との通信が遮断された状況下でも、無期限に稼働を継続できる設計となっている。

 アマゾン側がここまで踏み込んだ背景には、欧州における厳格な規制環境がある。

 EUでは米当局などによる法的アクセスへの懸念から、米国主導のテクノロジーに対する警戒感が根強い。

 今回の独立クラウドは、機密性の高いデータを扱う政府機関や公共インフラ企業を対象に、データレジデンシー(データの所在)に関する疑念を払拭する狙いがある。

 一方で、この新サービスには解決すべき課題も浮き彫りになっている。

 運用主体の新法人はドイツに設立されたが、親会社は依然として米国企業のAWSだ。

 米メディアのコンピューターワールドによれば一部のアナリストは、米当局が国外データへのアクセスを求める「米クラウド法(CLOUD Act)」の影響や、米国の制裁措置が欧州の運用体制に波及するリスクが完全に解消されたわけではないと指摘する。

 アマゾンのこうした動きは、世界規模で進める「インフラ囲い込み」の一環だ。同社は2025年11月、米政府の機密案件向けに最大500億ドル(約7兆9000億円)の巨額投資計画を打ち出した。

 英国においても物流とAIインフラに400億ポンド(約8兆5000億円)を投じるなど、投資規模を拡大させている。官民両分野で圧倒的な「物理的容量」を確保し、競合他社を引き離す構えだ。

AWS欧州ソブリンクラウドの主な特徴

・設置場所:ドイツ(稼働中)、ベルギー、オランダ、ポルトガル(順次拡大)
・運営主体:ドイツに設立された独立法人子会社。EU市民によるガバナンス体制
・技術特長:AWS Nitro Systemによる物理的なアクセス制限。顧客が暗号化鍵を完全に管理
・投資規模:ドイツ国内だけで78億ユーロ(約1.4兆円)以上の継続投資
・提供サービス:AI、コンピュート、データベースなど90以上のAWSサービス