(英エコノミスト誌 2025年1月11日号)

グリーンランド買収は提案次第では世紀の取引となりうる(Siggy NowakによるPixabayからの画像)

新たな領土購入の経済学

 米国には国際関係に対して商業的なアプローチを取ってきた歴史があるが、買収がすんなり実行されることはめったにない。

 トーマス・ジェファーソンが1803年にルイジアナを買収し、国土を2倍に広げた時には、憲法に厳密に基づく国家形成への信念を棚上げせざるを得なかった。

 その考えを押し通していたら、連邦政府によるそのような大胆な行動は認められなかった。

 その64年後、当時の国務長官のウィリアム・スワードがロシアからアラスカを720万ドル(今日の1億6200万ドルに相当)で買収した時には、「スワードの愚行」と揶揄された。

 今では、アラスカの買収は大成功で、ルイジアナ買収に至っては米国最高の大統領の一人による最大の成果だと考えられている。

 後から振り返ってみると、どちらもかなりお買い得な取引に見える。

武力行使さえちらつかせるトランプ氏

 ドナルド・トランプ氏がデンマークを脅してグリーンランドを手に入れたとしたら、歴史はそれほど好意的ではないだろう。

 米国の次期大統領は1月7日、グリーンランドを(そしてパナマ運河を)手に入れる手段から軍事力や経済戦争を排除することはしないと述べた。

 もし友好国に領土の割譲を強要したりすれば、米国は複数の友好国を失うことになるだろう。

 だが、トランプ氏の挑発がばかげている理由はそれだけではない。

 グリーンランドの買収は、自由にかつ友好的になされるのであれば、新たな「世紀の取引」になり得るからだ。

 そのような取引をすれば、米国の安全保障は強化されるし、恐らくは北大西洋条約機構(NATO)加盟国のそれも強化される。

 独裁者たちは意気消沈するだろう。

 そしてこの買収は、グリーンランドの住民にも恩恵をもたらす。

 もちろん、買収の可否を最後に決めるのは住民でなければならないし、確実にそうなる。