(英エコノミスト誌 2025年1月11日号)
大量追放などという物騒な政策を公約している人物が、本当に米国の移民制度を修復できるのか。
ドナルド・トランプ次期大統領の記者会見ぐらい頭がくらくらすることはない。
フロリダ州にある同氏の冬宮で1月7日に開かれた会見では、洋上風力発電の風車のせいで恐らくクジラが死んでいると非難したかと思えば、カナダやグリーンランド、パナマ運河を併合するとの構想をぶち上げた。
精神分析の自由連想法、にやにやしながら口にする挑発、そして本気で世界を変えようという意図の3つがない交ぜになった会見だった。
それに比べると目立たなかったが、同じ1月7日には「レイケン・ライリー法」が連邦議会下院を通過した。
万引きのような軽い罪を犯した不法移民をこれまでよりも容易に強制送還できるようにする法律だ。
移民問題は、次期政権が1月20日の大統領就任式後に真っ先に取り組むと見られるテーマだ。
そしてここでも、トランプ氏は頭がくらくらする政策の組み合わせを公約している。
不法移民の問題は有益な改革の機会を提供する一方で、大衆が喜ぶ破壊的で荒っぽい政策にもつながりやすい。
ここでトランプ氏がどの道を選ぶかは、次期大統領の任期について何かを語るだけでなく、移民がらみの政治問題を抱えるほかの多くの高所得国にも影響を及ぼす可能性がある。
強硬な移民対策を掲げて手に入れた2期目
ジョー・バイデン大統領の政権下では、少なくともしばらくの間は国境で混乱が生じた。
民主党員の多くはこれに対し、その件で有権者が怒ったのが悪いと責め、先の選挙で苦杯をなめることになった。
米センサス局の直近のデータによれば、米国では2023年に移民――外国生まれの米国居住者――が280万人純増した。
全居住者に占める移民の割合は、次期大統領の祖父に当たるフレデリック・トランプがドイツを出てニューヨークに向かった1885年以降にもっと高いことがあったが、ここ100年間では最大だ。
ほとんどの米国人は合法移民を歓迎し、米国は移民を同化させることに長けているものの、亡命申請し、裁判所での審理を待つ間に闇の労働市場に消えてしまう移民に対しては腹を立てている。
トランプ氏は移民管理の強化を託されて大統領に就任する。
選挙期間中には1期目の政権を特徴付けた忌まわしいレトリックを用い、移民は米国の「血を汚す」などと発言していた。
4年間で強制送還された人数がバラク・オバマ大統領の政権下より少なかった1期目と今日が対照的なのは、トランプ氏が移民問題に本当に力を入れたがっているように見えることだ。
トランプ氏が大統領次席補佐官に指名したスティーブン・ミラー氏は、違法な移民だけでなく合法な移民も制限したがっている。
国境対策の責任者に就くのは、1期目のトランプ政権で移民の家族を引き離して異なる施設に収容する政策の立案者の一人だったトム・ホーマン氏だ。
これまでの大統領は輸送業務の支援にしか兵士を動員してこなかったのに対し、トランプ氏は強制送還を支援するために州兵を投入する考えも表明している。