(英エコノミスト誌 2025年4月5日号)

だが、諸外国には損害を抑制する手段がある。
米国が「近くの国々や遠い国々から略奪、強奪、陵辱、横取りの憂き目に遭ってきた」とか、「繁栄する機会」を残酷なほど与えられてこなかったとは気づかなかったと思っている読者がいたら、「おめでとう」と声をかけたい。
なぜなら、米国の大統領よりも現実をしっかり把握している証になるからだ。
「解放記念日」が告げた新時代の到来
どちらの事実の方が大きな不安をかき立てるか判断するのが難しい。
それは自由世界の指導者が、世界で最も成功し、憧れの的になっている自分の国についてばかげたことをわめき立てているという事実なのか。
それとも、ドナルド・トランプ氏が自身の抱く幻想に駆られ、米国の通商政策を百数十年ぶりに大転換することを4月2日に発表し、現代において最も重大で有害かつ不要な経済政策の過ちを犯したという事実なのか――。
大統領はホワイトハウスの庭園「ローズガーデン」で演説し、米国のほぼすべての貿易相手国に「相互」関税を新たに課すと発表した。税率は中国が34%、インドが27%、日本が24%、欧州連合(EU)が20%だ。
すべての国々に少なくとも10%の税率が適用されるため、多くの小国が懲罰的な税率に直面する。すでに発動された関税と足し合わせれば、中国に対する税率は65%に達する。
カナダとメキシコは追加関税を免れた。
例えば輸入自動車に対する25%の関税や予定されている半導体への関税など、特定の産業に絞った関税には新たな課税が追加されない。
だが、米国が課す輸入関税全体の税率は世界大恐慌の時代のそれを上回り、19世紀以来の高水準に跳ね上がる。
トランプ氏はこの日が米国史上最も重要な日の一つになると述べた。この指摘はおおむね正しい。
同氏が「解放記念日」と呼んだ日は、米国が世界の貿易秩序を完全に放棄し、保護主義を受け入れたことを告げる。
大統領の無思慮な破壊行為に当惑する国々にとって問題は、いかにしてダメージを抑制するか、だ。
歴史の解釈はあべこべ、経済についての主張はナンセンス
トランプ氏が歴史や経済について、そして貿易の専門的な事項について4月初めに語ったことは、ほぼすべて完全に誤りだ。
まず、歴史の解釈があべこべだ。
同氏は以前から、19世紀終盤の高関税・低所得税の時代を賛美してきた。だが、トップクラスの研究成果によれば、実際には関税は当時の経済の妨げになっていた。
トランプ氏はここへ来て、関税の撤廃が1930年代の大恐慌を引き起こし、スムート・ホーリー関税を導入したが間に合わず国を救えなかったという不可解な主張もするようになった。
関税が大恐慌をさらに悪化させたというのが本当のところで、あの当時と同じように、今回の関税も世界中に打撃を与えることになる。
関税を引き下げ、繁栄に貢献したのは、その後の80年間に重ねられた骨の折れる貿易交渉だった。
経済に関するトランプ氏の主張は全くのナンセンスだ。
大統領は、米国の貿易赤字を外国人への富の移転と見なし、この赤字を縮小するには関税が必要だと主張している。
しかし、部下の経済学者なら誰でも説明できたように、米国で貿易赤字が発生しているのは、米国民が国民全体の貯蓄を投資額よりも少なくすることを選んだ結果だ。
特に重要な点は、この長年続く現実が、米国が30年以上にわたって他の主要7カ国(G7)よりも高い経済成長率を達成するのを阻止しなかったことだ。