(英エコノミスト誌 2025年3月29日号)

イスタンブール市長の逮捕・投獄に抗議して集会に参加した女性を連行するトルコ警察(3月27日、写真:AP/アフロ)

欧米諸国はエルドアン大統領にほとんど抵抗していない。

「大統領は数日前にエルドアン氏と重要な会談をした」

 トランプ政権のスティーブ・ウィットコフ中東担当特使は3月21日、メディアの取材でこう言った。

「トルコからは前向きな明るいニュースがたくさん出てくる」

 そんな発言が出た頃、トルコでは十数年ぶりの大規模な抗議行動が全国に拡大していた。

 ひょっとしたらウィットコフ氏は、米国の「F-35」戦闘機をトルコに売る見通しや、トルコがウクライナの戦争の調停関与に意欲を示していることに言及していたのかもしれない。

 だが、トルコで最も有力な野党政治家のエクレム・イマモール氏が3月19日に逮捕されたことやその後の抗議行動についてウィットコフ氏が何も語らなかったことに、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は恐らく気づいていた。

 このトルコの指導者は欧米諸国の首都に漂うムードを読み、国外から見た自分の立場を国内の弾圧に利用している。

野党指導者の逮捕に市民の怒り爆発

 公の場での集会が禁止されているにもかかわらず、抗議する学生たちは1週間以上にわたって警察と対峙している。

 少なくとも10人のジャーナリストを含む1800人あまりが身柄を拘束された。ケガ人も大勢出ている。

 イスタンブール市役所の外にある広場には、学生を中心に数万人が集まり、催涙ガスや放水銃、ゴム弾などにほぼ毎晩立ち向かっている。

 イスタンブール市長でトルコの野党勢力の事実上の指導者でもあるイマモール氏は、でっち上げだと広く受け止められている汚職の疑いで逮捕された。

 人々の怒りが鎮まる気配は全く見えない。

 イマモール氏がイスタンブール郊外にある凶悪犯罪者向けの最も厳重な警備態勢が取られた拘置所に移送された3月23日、野党の共和人民党(CHP)は2028年に予定されている次の大統領選挙に向けた予備選挙を実施した。

 候補者はイマモール氏だけで、信任投票の形で同氏が候補に確定された。予備選では、CHPの党員のみならず有権者なら誰でも投票できた。

 同党によると、1500万人が参加した。

 自らの支配に挑みかかってくる数年ぶりの大きな脅威に直面したエルドアン氏は、デモの取り締まりで負傷した警察官らの報告を利用し、野党が暴力を助長していると非難した。

 3月25日には「警戒せよ、我が国は街頭テロには屈しない」と述べた。

 これは聞き覚えのあるセリフだ。

 10年あまり前、トルコのストロングマン(強権的指導者)であるエルドアン氏は、イスタンブールで市民に親しまれていた公園を不動産開発業者の手から守ろうとして始まった一連の抗議行動をクーデターになぞらえた。

 抗議行動の参加者が数多く起訴された。

 芸術家の支援者としても知られた実業家のオスマン・カバラ氏に至っては、抗議行動を主導したとの濡れ衣をトルコ政府に着せられ、2022年に終身刑を言い渡されている。