(英エコノミスト誌 2025年3月15日号)

つぶされるのを回避するには、おべっかや譲歩よりも優れた計画が必要だ。
米国は何十年もの間、友好国の側に立ち、敵対的な国々を抑止してきた。その確固たる姿勢が、今まさにひっくり返りつつある。
ドナルド・トランプ大統領が同盟国に高圧的な政策を取る一方で、敵対する国々と取引をしようとしているからだ。
3月3日にウクライナへの支援をすべて凍結した後、ウクライナが30日間の停戦に原則的に同意したことを受けて支援を再開した。
この停戦案を受け入れるようホワイトハウスがどの程度強くロシアのウラジーミル・プーチン大統領に圧力をかけるかは定かでない。
同じ日に、トランプ氏は短時間ながらカナダの関税率をさらに引き上げた。これを見たマーク・カーニー新首相は、略奪的な米国が「我らの水、我らの土地、我らの国」を欲しがっていると警鐘を鳴らした。
アジアも忘れてはならない。
トランプ氏はつい先日、アイゼンハワーが1960年に署名した日米安全保障条約に言及し、米国にとって価値のあるものなのかと疑問を呈した。
今では世界中の同盟国が、「米国第一」とは自分の国が第二か第三、下手をすれば最後になるという意味なのかと戦々恐々としている。
猛烈な行動の代償
トランプ氏とその支持者らは、大統領のがむしゃらな行動が米国の力を高め、行き詰まりを打開し、米国にたかるだけの寄生虫のような同盟国に活を入れると考えている。
大統領には国の行動を変える力がある、ウクライナの停戦案がその証拠だ、と思っている。
だが、その代償は何か。
トランプ氏の貿易戦争は金融市場をパニックに陥れている。1945年以降、自国の防衛を米国に委ねてきた40あまりの国々は、米国をこれまでのようには信用できなくなっている。
各国はチーム・トランプの一貫性のなさと短期主義的な見方について憂慮しており、ウクライナの停戦に少々似ているガザの停戦合意は近々崩壊するかもしれない。
トランプ氏は、国内ではチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)に直面する。国外にはそういう仕組みがあまりない。
最悪の事態になった場合、トランプ氏やその後任かもしれないJ・D・バンス氏は自国の軍隊と一緒に戦ってくれると考えてもよいのだろうかと同盟国は疑心暗鬼になっている。
残念ながら、十分に確実ではないというのがその答えになるだろう。
米国に対する信頼の喪失は、同盟国への一連の強要はMAGA(米国を再び偉大にする)運動が掲げる課題、つまり価値観とは無縁な課題の必然的な結果であることが理解され始めたことの反映でもある。
同盟国との持ちつ持たれつの関係は、米国がロシアや中国のような敵対国への影響力よりも大きな影響力を同盟国に及ぼせることを意味する。
カナダ、欧州、そしてアジアの一部はもう何十年もの間、米国の「超大国特有の資源」――防衛関連の条約、貿易協定、核兵器、米ドルによる銀行システム――を信頼してきた。
そうすることが互いの利益になったからだ。悲劇的なことに、トランプ氏はこれをお荷物だと見ている。