
トランプ関税ショックがマーケットを襲うなか、原油価格も乱高下している。需給の状況を見ると米WTI原油先物価格は60ドル前後で推移する可能性が高そうだ。原油価格の低下は輸入に頼る日本にとっては朗報だが、産油国、特に中東諸国の経済に打撃となり政情不安を引き起こすリスクが高まる。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=55ドルから63ドルの間で推移している。米中関税戦争の激化で市場のセンチメントが急速に悪化し、価格のレンジ圏は先週に比べて10ドルほど下落している。トランプ米大統領の言動に振り回される事態も続いている。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
週明けから原油価格は下落一方だった。トランプ政権の相互関税発動により4月9日の原油価格は一時、1バレル=55.12ドルと2021年2月以来4年2カ月ぶりの安値を付けた。
その後、トランプ氏が「米国側に交渉を持ちかけている75以上の国・地域の相互関税を90日間に限って10%に引き下げる」と発表すると一転して急上昇し、62.35ドルで取引を終了した。
トランプ氏の発表前、バンク・オブ・アメリカは「原油価格は1バレル=50ドルまで下落する可能性がある」と予測していたが、最悪のシナリオはひとまず回避された。
だが、楽観できない状況が続いている。米国と中国との間の関税戦争がヒートアップしており、世界の4割近く(日量約3700万バレル)を占める両大国の原油需要が停滞するリスクが残っているからだ。