
ドナルド・トランプ氏が大統領に就任して以降、米国の仲介でロシアとウクライナの停戦協議が行われている。
2025年3月11日、米国とウクライナの停戦協議と18日の米ロ首脳電話会談で、停戦は実現できなかったものの、両国間で「エネルギーインフラ施設攻撃停止」という合意はできた。
これにより、ウクライナは不利な条件を受け入れて、ロシアの石油施設を攻撃しない合意を守っている。
この合意により、ロシアの生命線である石油施設が一時的ではあるが守られ、ロシアは助かっている。
にもかかわらず、ロシアは停戦のために無理難題を要求し続けている。
さらに、ロシアはウクライナに対して、地上および空からの攻撃をやめる気配が全くない。
しかも、新たな戦術に勝ち目を見出し、ウクライナにダメージを与え続けているのである。
今回は、ロシアが勝ち目を見出した新たな戦術について考察する。
すなわち、①撃墜を避ける自爆型無人機(無人機)攻撃、②撃墜されにくい弾道ミサイルの攻撃、③歩兵による浸透攻撃の継続についてである。
1.自爆型無人機攻撃数の著しい増加
ロシアは、2024年7月までは月間概ね500機以下だったシャヘドを主体とした無人機攻撃を、2024年8月から著しく増加させている。
その増加の推移については、グラフ1のとおりである。特に、今(2025)年の2・3月では、月間約4000機、毎日平均130以上の攻撃を行っている。
ロシアは、比較的安価な無人機攻撃に勝ち目を見出して攻撃を続けており、やめる気配がない。
グラフ1 ロシア自爆型無人機による攻撃機数の推移

ロシアの攻撃に対し、ウクライナは2024年8月以降、電子戦機器を使用して、ロシアの無人機攻撃を無効化し、自然落下あるいはロシアやベラルーシに向かわせ落下させている。
2025年2月には、電子戦による無効化の比率は40%まで達し、防空ミサイルや高射機関砲と合わせて、撃墜率および無効化の比率は約97%にまで高まっていた。
撃ち漏らしの数は、昨年9月から今年2月までの平均が約90機で、2025年2月が約100機だけであった。
ところが、2025年3月頃から、ロシアは無人機攻撃の方法を変えた。
具体的には、高射機関砲の射撃では届かない、あるいは命中させることが難しい高度で目標付近まで飛行し、近づいたら撃墜を難しくする急降下で、目標に突入させているのである。
この攻撃方法により、電子戦による無効化は1580機から1340機に、240機減少した。
2025年3月に前月より攻撃機数が100機増加したことを考慮しても、電子戦攻撃による無効化ができにくくなったのである。
ウクライナがロシア無人機を撃ち漏らした数が430機/月であり、比率でみると、2月以前の6か月では4%前後だったものが、直近では10%にまで増加することになった。
ウクライナへの無差別攻撃の被害は大きい。
図1 ロシア無人機攻撃方法の変更(イメージ)

ロシアは、両国のエネルギーインフラ施設を攻撃しないという取り決めを行った一方で、ウクライナが対策を取りにくい方法を見つけ出して、無人機による無差別攻撃を行っているのである。
この攻撃は、ロシアに有利になってきている。
ロシアは、せっかく見つけ出した効果的な攻撃をやめることはないだろう。ウクライナが、ロシアのこの攻撃を潰さない限り、ロシアは停戦の話には乗ってこない。
米国、欧州、そして日本は、ロシアの高高度飛行で急降下の無人機攻撃を打ち砕く防空兵器を早急にウクライナに供給する必要があるだろう。
特に、日本の優秀な短距離防空兵器、電子戦攻撃兵器への資金提供を申し入れることは、停戦実現のために有効な方法だと、私は考えている。