2.攻撃数は減少も、撃墜困難なミサイル多用
ロシアはこれまで、空中や地上の発射機から、大量の各種弾道ミサイルでウクライナの都市インフラ、市民の居住地、軍事施設を無差別に攻撃してきた。具体的には以下のとおりである。
①「Tu-22」バックファイア爆撃機からの「Kh-22キッチン(Kh-32)」高速ミサイル攻撃では、ウクライナはほとんど撃墜ができなかった。
②約2000キロ離れた地域から「Tu-95」ベアや「Tu-160」ブラックジャックが発射する「Kh-101」コディアック等巡航ミサイル攻撃では、ウクライナはほとんど撃墜できていた。
③地上発射弾道ミサイルの「イスカンデルM」ミサイル攻撃(空中発射型はキンジャールの名称)では、ウクライナのパトリオットミサイルが配備されている地域では撃墜ができていた。
図2 空中や地上からの各種ミサイルの発射(イメージ)

そのミサイル攻撃は、2022年9月(データ公表)以降から2024年12月までの平均が約260発、2024年12月以前の6か月間の平均が約220発、2025年2・3月は各月約100発までに減少している。
この3か月間では著しい減少がみられる。
その全般的理由は、ロシアへの経済制裁でミサイル部品を西側諸国から輸入することができなくなったこと、自爆型無人機攻撃で代用していることが大きな要因である。
グラフ2 ロシア各種ミサイル攻撃基数

作戦上の理由は、発射母機の機器が消耗して部品の取り換えができないこと、もともとの爆撃機の母基地がウクライナの自爆無人機の攻撃によりウクライナから遠く離れなければならなくなったことやミサイルが破壊されたことなどが挙げられる。
では、ロシアはミサイル製造数が減少していることや発射母体の爆撃機の運用の各種制約が発生していることをどのように解決しているのか。
ロシアは、ミサイルの種類によって対策を変えているようだ。
撃墜される可能性が高い遠距離巡航ミサイルは、その製造を減らし、発射数も減らしている。
バックファイアからの高速発射ミサイルは、撃墜されてはいないが、部品の入手が難しく製造数が減少している可能性がある。
地上発射のイスカンデルMミサイル(空中発射のキンジャール)は、最近、撃墜数が減少している。
ウクライナが保有するパトリオットミサイルの数が少なくなってきているからだろう。
また、パトリオットの配備がない地域では、ウクライナから迎撃されないので、このミサイルだけが撃墜されずに継続して攻撃できている。
さらに、このミサイルは北朝鮮も製造していることから、北朝鮮から供給してもらえるのである。
ロシアは、生産できないミサイルや撃ち落とされるミサイルの生産を減らし、その結果、ミサイル攻撃数が減少している可能性がある。
それでも、月間100発の発射を継続しているのは、ウクライナから撃墜されないミサイルと、北朝鮮からも供給されるイスカンデルミサイルを重点的に撃ち込んでいるからである。
ウクライナにパトリオットミサイルの供与数が増加されなければ、ロシアは、イスカンデルMミサイルを使って攻撃し、低い撃墜頻度で狙った目標を攻撃できる。
その結果、ウクライナでは市民が殺傷される無差別攻撃が続くことになる。
ロシアのミサイル攻撃が成功していることで、ウラジーミル・プーチンはこの攻撃をやめることはないだろう。
米国、欧州そして日本は、停戦協議を進めるためにもウクライナにパトリオットミサイルの供給を急ぐべきだ。