
ロシアによるウクライナ侵攻以前、ロシア海空軍による日本周辺の情報活動のすべては、航空機によるものだけであった。
具体的には、ロシアの「Tu-95」ベア空軍偵察機・戦略爆撃機、「IL-20」空軍情報収集機、「Tu-142」海軍哨戒機、「A-50」早期警戒機、「IL-38」海軍哨戒機、「Su-24」空軍戦術偵察機が実施していた。
情報収集艦の日本接近は、2008年バルザム級情報収集艦が沖縄付近で漂着していた事例を除き、2022年3月20日(ウクライナ侵攻1か月後)のヴィシニア級情報収集艦が対馬付近で確認されるまで全くなかった。
ところが、十数年間実施してこなかった情報収集艦による情報収集を2022年3月から実施するようになった。
情報収集艦は、日本の領土のすぐ近くまで接近し、頻繁にその活動を継続している。
2022年3月から、極東、特に日本周辺で実施したということは、時期的に一致することなどから、ウクライナ戦争と関係があると思える。
今回は、ウクライナから遠く離れた極東方面での情報収集とウクライナ戦争とどのような関係があるか考察する。
1.ウクライナ侵攻直後に活動開始
ロシアのウクライナ侵攻から1か月後の2022年3月、ロシアの情報収集艦が対馬で十数年ぶりに確認された。
その後、2022年7月日本1周、10月津軽海峡進出、2023年3月日本1周、9月三沢~関東~九州東部~三沢~宗谷海峡(図1左)、2024年3月日本海から先島諸島(レドームなし、錆なし)、8月前年3月とほぼ同じ、2024年11月と2025年2月日本海~宮古海峡~九州東部の帰投(図1右)、2~3月日本海~宮古海峡の往復を行った。
これは極めて特異なことである。日本へ接近したロシア情報収集艦の特異な活動例は、図1のとおりである。
図1 情報収集艦の特異な例(左:2023年9月、右:2025年2月)

日本に接近するロシアの情報収集艦は、ヴィシニア級とバルザム級である。
この2種類の艦には、大型レドーム(レーダーを保護するためのドーム状構造物)あるいは小型のレドームが取り付けられており、陸上局(兵器)と衛星との間でやり取りされる情報を収集できる能力がある。
在日米軍は、通信衛星を通じて米本土の司令部とやり取りする必要があることから、ロシアはその交信を収集しようとしたと考えられる。
大型のレドームが取り付けられた艦は錆が目立つが、小型のレドーム艦には錆がない。
これらの情報収集艦で赤錆が目立つのは、十数年以上使用していなかったためであるが、この錆を落として塗装する時間がなかったということである。それほど切羽詰まった状況であったことを示すものである。
錆が多くても大型のレドームがある艦を運用しなければならない理由があるのだろう。
ほかにも、レーダーの電子情報や交信用の通信情報を傍受できる各種アンテナを多数備えている。
特に、ヴィシニア級情報収集艦の写真を見ると、アンテナだらけだ。
写真 ヴィシニア級とバルザム級の情報収集艦

この情報収集艦は乗員約150人で、陸上にある小中規模の通信傍受基地を載せているようなものだ。
長時間特定の海域に接近して留まれば、日本から離れた大陸で情報収集するより多くの貴重な情報を収集できる。
例えば、図1の右図の赤楕円のところでは、その海域に留まっていた。