トランプ関税が世界を揺るがしている(写真:ロイター/アフロ)

筆者は今年元日の本コラム記事で、トランプ米大統領が2023年9月、「我々は大恐慌に向かっている。唯一の問題は、それがバイデンの任期中に起きるか、私の任期中に起きるかだ」と述べたことを紹介しました。記事掲載から3カ月半が経過した今、トランプ大統領の関税政策発表で世界中の株や債券、為替、そして金価格が大きく揺れ動いています。ここではトランプ大統領が関税を打ち出した背景を分析し、今後の金融市場の行方について予測してみます。

(市岡 繁男:相場研究家)

45〜54歳の白人壮年層の死亡率は右肩上がり

 今年3月中旬に行われた米NBC放送の世論調査によると、トランプ政権が経済に好影響を与えていると考える回答者は40%で、そう思わないという30%を上回りました。2月下旬以降、株価が軟調に推移する中だったことを考えると、意外な結果だったかもしれません。

 しかしトランプ氏の支持層はウォール街の金融関係者や富裕層ではなく、株高の恩恵に与れない多くの国民です。彼らにとって良いことは、投資家にはマイナスであることも多いということかもしれません。

 そのことを端的に示すのは、21世紀以降、国内総生産(GDP)比でみた雇用者報酬と企業収益が反対の動きをしていることです(図1)。一国全体でみて、労働者の取り分が相対的に減少する一方で、人件費縮小の影響で企業収益は大幅増となっているのです。

【図1】出所:FRB

(本記事は多数のグラフを基に解説しています。正しく表示されない場合にはオリジナルサイト「JBpress」のページでお読みください)

 こうした二極化が鮮明になったのは、2001年末、中国のWTO(世界貿易機構)加盟を機に、生産拠点を人件費が安い新興国に移す企業が続出したからです。対外直接投資の増加に伴って、「雇用者報酬÷GDP」が低下していることはその証左でしょう(図2)。

【図2】出所:FRB、米経済統計局、注:ネット対外直接投資は対外直接投資-対内直接投資で算出

 海外に工場が移転したことで犠牲になったのは、主に白人のブルーカラー層です。仕事を失った人々の中には酒や麻薬に溺れる者も少なくないことから、45〜54歳の白人壮年層の死亡率は右肩上がりで推移しています(図3)。まさに命の問題になっているのです。

【図3】出所:National Vital Statistics、厚生労働省

 海外に移転した工場を国内に戻すことができれば、こうした人々の雇用や賃金は増加する——。トランプ人気の高まりはそんな期待の表れでしょう。