ピート・ヘグセス米国防長官が来日、中谷元防衛大臣と会談した(3月30日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 今年3月30日、日米防衛相会談が開催された。

 会談は「大成功」で、日米間で「インド太平洋での情勢認識、また安全保障観点での目指す方向性といった考え方で一致」したとされている。

 しかし、本当に一致したのだろうか。日米の防衛政策の今後目指す方向性に食い違いはないのだろうか。

 それを検証するため、まずバイデン政権とトランプ政権の安全保障政策の不変な要素と変化した要素を確認する。

 その後、日本の選択肢について考察する。

米国のインド太平洋戦略の転換

日本の独力防衛・集団的自衛参加への要求

 日米連携については、中国による強引な南シナ海の軍事基地化を契機として対中警戒に転換した2015年のオバマ政権末期以来、その必要性が一貫して強調されるようになった。

 バイデン政権下の2022年10月22日に、当時のエリー・ラトナー米国防次官補は日米連携強化の在り方について、役割・任務・能力の近代化、抑止と対処力の強化および情報・サイバーセキュリティ・宇宙での拡大抑止・統合の必要性を重視し、以下のような具体的諸施策を示した。

①クロスドメイン作戦における協力:陸海空・宇宙・電磁波・サイバーなど、異なる領域相互間の目標情報収集、統制指揮命令、攻撃の実施等に関する作戦上の相互連携における日米間協力。

②相互運用性強化:米陸軍マルチドメイン任務部隊との日米共同演習、奄美大島へのHIMARS(高機動ロケット砲システム)の展開、海洋状況把握とISR(情報・警戒監視・偵察)強化のため、海上自衛隊鹿屋航空基地(鹿児島県鹿屋市)への「MQ-9」無人機の展開。

③防衛力強化:打撃力、空軍、ミサイル防衛、対潜、宇宙、サイバー戦能力の改善。無人機・超音速兵器対処での先端技術協力。新領域でのクロスドメイン能力向上、サプライチェーンの保全、対空・対弾道ミサイル防衛協力の強化。

④防衛資源の増強:防衛費の増額、ミサイル脅威対処などすべての選択肢の検討、米戦略との整合。

 特に、①のクロスドメイン作戦における日米連携の実現にあたっては、宇宙・電磁波・サイバー領域を含む統合レベルでの、共同統合作戦の統制調整の指揮組織が平時から必要になる。

 このためには、日米ともに窓口となる統合作戦司令部設置が不可欠になる。この点は、米国のピート・ヘグセス国防長官も指摘しているように、現在すでに進展中である。

②のマルチドメイン戦略は、「米陸軍が統合軍の一部として、競争で優越するための作戦を行い、必要な場合、中国の「接近阻止/領域拒否」システムを突破分断し、戦略目標を達成するための機動の自由を利用して好ましい条件で敵に代価を払わせる」ことを狙いとする、米陸軍の作戦戦略である。

 マルチドメイン戦略では、以下のように逐次間合いを詰めながら中国側の弾道ミサイル等の脅威を段階的に排除する。

 同盟国はその間、前線国家として米軍の直接来援なしに国土防衛をしなければならない。

 米陸軍のマルチドメイン作戦では、米軍が西太平洋に空母を安全に進出させ日本など同盟国に来援するために、段階的に中国のミサイル戦力などの脅威を制圧することを構想している。

 そのために、まず遠距離から中国内陸部の米本土攻撃が可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を米大陸と米国近海からの長射程ミサイルで制圧する。

 次いで、西太平洋の中距離の間合いから、中国の東北地区・チベットなどに展開する中距離・準中距離の弾道ミサイルなどを制圧する。

 次いで、第1列島線の日本列島~南西諸島~台湾~フィリピン~南シナ海付近から、台湾対岸の福建省などに展開する短距離弾道ミサイルなどを制圧する。

 最後に地上戦を行うという作戦構想である。

 その結果、米陸軍マルチドメイン任務部隊の本格的来援は、対中ミサイル戦が成功しなければ期待できず、来援があっても中国側の各種弾道ミサイル等制圧後の数か月後になるとみられる。

 米陸軍のマルチドメイン作戦戦略においては、この少なくとも数か月間は、同盟国自身が対中作戦の前線国家となる。

 その間、米海空軍の支援は部分的に行われる可能性があるが、米陸軍の来援のない状況下においては、前線国家の国土国民の防衛は、基本的に当該国自らが行うことを前提にしていることになる。

 なお、米海兵隊も2020年3月に発表した新方針『戦力設計2030』においては、戦車部隊や渡河部隊を全廃する計画であり、統合強襲上陸作戦により海岸堡を設定する任務は付与されていない。

 海兵隊も、海軍に密接に協力するため、敵ミサイル攻撃を回避して小部隊ごとに分散して前方に進出し無人島等に展開し、ミサイル攻撃等の目標偵察・誘導・宇宙を含む通信中継・サイバー戦などの任務を遂行するような戦力設計に、2030年頃までに移行することを計画している。

 海兵隊が同盟国の陸上戦闘に本格的に来援することも期待できない。
また、日米連携の対象地域についても「インド太平洋全域」に拡大することが求められている。

 対象地域については、以下の諸点が盛り込まれている。

①台湾海峡・東シナ海・南シナ海での日米・米同盟国との協力強化

②日米韓の連携:3か国によるミサイル防衛演習・対潜・空軍演習、集団戦力発揮態勢

③日豪防衛協力:防衛相会談、3か国協力、特に情報共有、演習、技術協力

④南太平洋・東南アジアとの連携:能力構築支援、海洋状況把握、統合演習

⑤QUAD(日米豪印戦略対話):海洋状況把握協力

 このようにバイデン政権下においても、日本側に対しこれらの広範かつ具体的な域内諸国に対する防衛協力が、インド太平洋全域において求められていた。