トランプ政権が打ち出す関税政策は世界経済に打撃を与えると考えられている(写真:ロイター/アフロ)

トランプ米大統領による一連の関税政策の発表で、金融市場は日々大きく動いている。最終的に何をしたいのかが良く分からず、金融市場の評価が振れている面もある。しかし、「そもそも論」として、この政権は自国にとって何が良かれと考え、何をしようとしているのか。トランプ政権は、どういう意味で米国をもう一度偉大にしようとしているのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

これまで進んできた分断を逆回転させる

 トランプ政権の関税政策は、自由貿易を破壊するものだと言われる。だから、グローバル経済の成長率は低下するとみられている。

 自由貿易でグローバル経済の成長率が高まるのは、それぞれの国の経済が得意な分野に特化していくことで、全体としてみて経済活動の効率性が改善し、したがってより高い生産性が実現できるからだと言える。

 しかしこれは、一つひとつの国の経済を、全体としてみた場合の評価だ。「得意な分野に特化する」と言えば、聞こえは良いが、その反対側には不得意な分野がある。その不得意な分野を諦めることで、経済全体としてはより高い成長できるかもしれないが、諦められた分野で暮らしてきた人々はどうなるのか。

 米国の錆び付いたベルト(Rust Belt)と呼ばれる五大湖周辺の地域の製造業が、その諦められた分野の一例であり、そこで働く人々の不満をも背景に、トランプ大統領が再選された。

 他方、米国経済の現在の強みの1つは、明らかにデジタルサービスの分野にある。プラットフォーマーと呼ばれるデジタル企業は、ほとんどが米国から生まれており、欧州も日本もそれに追い付けていない。

 デジタルサービスの供給に関連する分野での急拡大が、米国経済全体としての高成長を実現してきたが、その陰には実質所得が増えない労働者がいて、貧富の差は拡大し、社会の分断が進んでいる。トランプ政権が明確にしているのは、米国としては不得意分野になった産業を重視し、これまで進んできた分断を逆回転させるという意思なのではないだろうか。