米国と報復関税の応酬を続ける中、東南アジアを歴訪する中国の習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
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中国政府が電気自動車や電子機器、ミサイルなどの兵器にも欠かせないレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)の輸出規制を強化している。米トランプ政権が中国に対し高い追加関税を課した今月にはジスプロシウムなどの7元素を輸出規制の対象に加えた。2010年、尖閣諸島沖の漁船衝突事件をきっかけに中国が対日輸出を止めた「レアアースショック」を教訓に日本や米国は対策を進めてきたが、中国依存を抜け出せていない。中国にとってレアアースの供給制限は強力な対米カードになる。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

EVやハイブリッド車、スマホなどに欠かせない「産業のビタミン」

 レアメタルやレアアースは中国が戦略物資として管理を強化している。

 レアメタルとは、経済産業省の定義ではニッケルやコバルト、タングステンなど31鉱種を指す。「産業のビタミン」とも言われ、使う量は少ないものの、欠乏すれば産業が麻痺してしまう。

 レアアースは、その鉱種の一つで、産出される17種類の元素をまとめて1鉱種としている。光学ガラスに使うランタンやイットリウム、ガラス研磨剤や自動車触媒になるセリウムなどがある。なかでも高性能磁石に欠かせないネオジムやジスプロシウムの重要性が高まっている。

 ネオジム磁石は日本企業の研究者が1980年代に発明した革命的な磁石だ。この磁石が生む強い力が小型高性能なモーターの生産を可能にし、ドローンも飛ばせるようになった。

 EVやハイブリッド車のモーターはもちろん、自動車のパワーステアリング、エアコンなどの家電製品、スマホやパソコン、病院のMRIが利用するのもネオジム磁石だ。用途をあげればキリがない。宇宙航空分野や軍事部門にも重要な材料だ。

 ネオジムなどの供給では中国が高いシェアを持ち、中国が輸出を止めれば世界に激震が走る。それが現実に起こったのが2010年のレアアースショックだ。

 発端は尖閣諸島周辺で中国の漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した事件だった。日中関係は緊迫し、中国はレアアースの対日輸出を事実上、止めた。「事実上」と表現したのは、中国は「税関検査を厳格にしただけだ」と禁輸を否定しているからだ。