金価格は昨年から上昇が加速している(写真:superbeststock/Shutterstock.com)

金価格の上昇が続いている。ドル建ての国際相場は1トロイオンス(貴金属の取引単位=約31.1グラム)3000ドルに迫り、国内では小売価格が1グラム1万5000円(消費税込み)を超えて最高値を更新した。地政学リスクは消えず、米トランプ政権が打ち出す関税引き上げ策は世界経済の先行きを一層不透明なものにしている。投資マネーを惹きつける金市場を俯瞰すれば、ドルの基軸通貨としての地位が揺らいでいる現実も浮かび上がる。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

BRICSを執拗に牽制するトランプ大統領

「我々は敵対的に見える国々に対し、新たなBRICS通貨を創設せず、また強力な米ドルに代わる他の通貨を支持しないという確約を求める。さもなければ100%の関税に直面することになる」

 トランプ米大統領は交流サイトの「トゥルース・ソーシャル」にこう投稿した。昨年11月末の投稿とほぼ同じ内容だ。

就任以来、関税を武器に他国に要求を突きつけるトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

 BRICS共通通貨はブラジルのルラ大統領などが構想を打ち出した。ロイター通信は2月、ブラジルの政府高官が匿名を条件に語った情報として、この構想は具体的な検討が全く行われていないこと、ブラジルは共通通貨ではなく、BRICS内の国際的な決済を現地通貨で円滑に行うための改革を推進しており、こうした取り組みの結果として米ドル依存が低減される可能性はあることを伝えた。

 ロシア大統領府のペスコフ報道官もBRICSは独自の通貨設立は計画していないとする一方で、共同投資プラットフォームの創設について話しているとした。

 国際通貨研究所が昨年8月に公表したリポートによれば、米ドルは国際貿易の決済などで大きな役割を担う基軸通貨として圧倒的なプレゼンスを維持している。一度、基軸通貨になると容易に地位が低下しにくくなる「基軸通貨の慣性」もドルを支えているという。

 ただ、中長期で米経済のプレゼンスが相対的に低下し、中国経済の成長とともに人民元の存在感が高まっていることも指摘。さらに、米国が対ロシア制裁で基軸通貨としての地位を利用したことが米国と対立する国々にとってドルが担う安全資産としての機能を毀損したと分析した。

 ロシアのプーチン大統領は昨年5月、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席との首脳会談で「(ロシアと中国)両国が自国通貨での決済を適時に決定したことで(2国間の)貿易が強化された。両国間の貿易の90%はすでに人民元とルーブルだ」と強調した。

 それはそうだろう。米国はウクライナに侵攻したロシアへの制裁を強化する中で、ロシアの主要銀行を国際送金網である国際銀行間通信協会(Swift)から排除した。ロシアは中国との貿易で決済を自国通貨のルーブルか、中国の人民元に頼らざるを得ない状況に追い込まれた。国際通貨研究所が指摘した米国がドルの基軸通貨としての地位を利用した制裁だ。