米国自ら打ち出した制裁でドルの地盤低下が加速

 ゆっくりと進んでいたドルの地盤沈下は、米国が打ち出した制裁が自らに跳ね返る格好で加速した。

 石油市場ではロシア産原油だけでなく、やはり米国から制裁を受けるイラン産原油も東南アジアを経由して中国に向かう。制裁下でもロシアが原油の生産量を維持し、イランが石油輸出を回復させた理由でもある。割安なロシア産原油はインドも調達を増やし、BRICSや米国と対立する国の間で「エネルギー経済圏」が生まれている。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙はJPモルガンチェースの推計を引用する格好で「23年の世界の石油取引のうちすでに2割程度がドル以外の通貨で決済された」と報じた。

 通貨の世界でも影響力を強めようとする中国は、中国人民銀行が2015年に人民元の国際銀行間決済システム「CIPS」を導入した。CIPSの存在感もその後の米中対立激化や対ロ制裁で浮かび上がる。

 英HSBCホールディングス傘下で香港を拠点にする香港上海銀行は昨年10月、CIPSへの参加を決めた。英フィナンシャル・タイムズ紙はドルの支配的な見方が終わりつつあるという同行の見方に加え、「米国が金融を武器化し、米ドル決済システムを乱用して他国を攻撃している」との中国人民大学重陽金融研究院幹部のコメントを紹介した。

 BRICSが共通通貨を打ち出さなくとも、ブラジルが示唆する自国通貨での決済を円滑に進める改革や、ロシアが表明した共同投資プラットフォームが実現すれば、さらなるドルの地盤沈下は避けられない。昨年のBRICS首脳会議でロシアは独自の穀物取引所創設も提案した。米国が神経質になる理由がここにある。

 中国人民銀行(中央銀行)が外貨準備の中で保有する金の量を600トンから1054トンまで一気に増やしたことを突如として発表したのは2009年だ。

 金の国際調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が国際通貨基金(IMF)の統計をもとに集計したデータで、ロシアや中国、インドなどの新興国は今世紀に入り金保有量の上位に浮上した。IMFを除くと直近でロシアが世界5位(約2336トン)、中国が6位(2280トン、香港を除く)、インドが8位(876トン)にある。

国別の金保有量