天ぷらなど使用済み食用油が飛行機の燃料になる(写真:HikoPhotography/Shutterstock.com)
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地球温暖化対策などについて話し合う「COP30(第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が閉幕した。合意文書は採択したものの、化石燃料からの脱却に向けた行程では意見がまとまらなかった。米国で温暖化対策に後ろ向きなトランプ政権が誕生するなど、脱化石燃料には逆風が吹く中、日本では航空業界に期待されている脱炭素燃料の取り組みにも慎重な見方が出ている。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

「2030年までに国内航空各社の燃料10%をSAF」が政府目標

 SAFという言葉を聞いたことはあるだろうか。英語のSustainable Aviation Fuelの頭文字をとった略称であり、日本語では「持続可能な航空燃料」とか「再生航空燃料」と訳される。使い終わって廃棄される食用油やサトウキビ、トウモロコシといった農産物を利用してつくられる航空燃料だ。

 国土交通省によれば、1人あたりの移動に発生する二酸化炭素(CO2)排出量で飛行機は自家用車に次いで多く、鉄道の5倍に達する。これを何とか減らそうと航空業界や各国政府が動き出し、日本も2030年までに国内航空各社が使う燃料の10%をSAFにする目標を決めた。

 だが、日本経済新聞の記事でも報じられているように、思ったように利用は進んでいない。普及のカギを握るのは原料確保と生産コストの引き下げだ。

 航空燃料以外では、自動車燃料にバイオエタノールなどを混ぜる対応が、すでに米国やブラジルなどで進んでいる。ブラジル政府は今年、国内で一般的に販売されるガソリンについてエタノールの混合率を27%から30%に引き上げた。ただ、背景にあるのは環境対策より、農家支援や石油の高騰対策といった側面が大きかった。ブラジルは世界最大のサトウキビ生産国。輸入ガソリンにバイオエタノールの混合を義務付けたのは1930年代に遡る。

 米国も状況は似ている。1980年代からトウモロコシの過剰生産と価格低迷をどう解決するかに悩んでいた。トウモロコシ生産者の支援とエネルギーの安全保障、おまけに環境対策にもなると考えたのが、トウモロコシでバイオエタノールを生産し、それをガソリンに混合する方法だ。2005年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)で再生可能燃料基準(RFS)が導入され、今日に至る。

 今年度の米農務省見通し(11月公表統計)でトウモロコシのバイオエタノール製造向け需要は56億ブッシェル(トウモロコシの1ブッシェルは約25.4キロ)と内需全体の43%を占め、輸出量(30億7500万ブッシェル)を大きく上回る。

 温暖化対策に背を向ける米トランプ政権は船舶の脱炭素にも反対し、脱炭素に賛同する国には米国港湾への入港禁止、港湾使用料の上乗せ、船員のビザ制限などを示唆。国際海事機関(IMO)による新規制導入は延期を余儀なくされた。