
小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害事件が明らかになって1年3カ月。信頼回復の途上にある同社は、食品・サプリを除くテレビCMを再開した。事件は過去のものになりつつあるかのようだが、国の審査なしに研究論文の提示だけで成分の働きを言及する機能性表示食品のCMには、相変わらず効果がありそうに見える演出が満載だ。テレビ局は営利主義に奔走するばかりでなく、安全性を重視して、CM考査のあり方を問い直すべきである。
(岡部 隆明:ジャーナリスト)
「繰り返しによって信じ込ませる」は広告戦略の一つ
——この1粒に凝縮されています
健康食品のCMで、よく耳にする言葉ではないでしょうか。「あなたの健康をサポートする成分を、効率的に摂ることができる」という魔法の言葉です。そこには消費者(視聴者)を幻惑する数々の宣伝手法が凝縮されています。
民放のテレビ番組では、多種多彩な健康食品のCMが放送されています。特に、中高年層がよく見ているBS放送では、健康食品のCMが怒涛のように流れています。
毎日、朝から晩まで、「体重が減少する」「認知機能が回復する」「ひざ関節の動きが改善する」などと思わせる情報に溢れています。乳酸菌、酵素、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン…その成分を示す単語が耳障りなくらい繰り返されています。
その繰り返しには意味があります。「真理の錯誤効果」と呼ばれる心理現象を利用したものです。人は、繰り返される情報に親近感を覚え、真実味を抱くという脳の働きを持っています。
「繰り返しによって信じ込ませる」手法は、広告戦略の一つで、テレビCMは、それを如実に体現していると言えます。
歴史を振り返れば、ナチスドイツが指導者崇拝などの思想を、ポスター・映画・ラジオを通じて、繰り返し国民に刷り込みました。「嘘も100回繰り返せば真実になる」は、ナチスのプロパガンダ戦略の象徴的な言葉です。
——最近、もの忘れがひどくありませんか?
——血糖値、気になりませんか?
CMは、一見すると親切で、視聴者の健康を気遣っている装いです。しかし、実際は「健康不安」という誰もが心の奥に抱える弱点を強調し、「この商品さえ飲めば不安は解消される」という「救済」を差し出すマインドコントロールの基本構造です。