失踪者は年間8万人を超える(写真:travelclock/イメージマート)
警察庁が発表している2024年の行方不明者数(行方不明届受理数)は、8万2563人(件数)だった。警察に届けを出していないケースを想定すると、実数はさらに大きいことが想像される。人々はなぜ姿を消し、いかに生きているのか。『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を上梓したライター・編集者の松本祐貴氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──本書では数々の失踪経験者に話をうかがい、失踪を中心にそれぞれの方がどんな人生を歩んできたのかについて書かれています。
松本祐貴氏(以下、松本):スーパースターの人生に関する話は興味深いですが、日の当たらないマイナーな人の物語にも光を当てて本を書きたいとずっと考えてきました。市井で生きている人たちの興味深い人生の物語をどう集めるかという観点から、今回は失踪者の人生をテーマにしました。
取材対象者を見つけるのは大変でした。知り合いに失踪経験者を知らないか聞いて回るなど、この本を書き上げるまでには2年半かかりました。
──学生時代に不良の世界に入り、そこから抜け出すことができない野村祥吾さんは、裏の世界でトラブルを抱えるたびに夜逃げという形で失踪した経験が複数回あります。彼の話を読んでいると、失踪には常習性があるように見えます。
松本:野村さんは、薬物でスリップ(依存行為を再び行うこと)と失踪を繰り返してきた現在42歳の男性です。彼はわりと裕福な家庭に生まれ、私立の中学校に入り、そのまま同じ学校の高校に進学したのですが、次第に素行不良になり、留年しそうになって定時制高校に転校しました。
転入先の高校は校内で薬物が手に入る環境で、彼も薬物に手を出してさらに転落していきます。その後、学生の身分でありながら、わずか16歳で女性に風俗の仕事を紹介するスカウトになると、ますます裏の世界に落ちていきました。その後、十代でギャンブルにハマり、数百万円の借金を作った彼は失踪しました。
野村さんは、長いこと薬物の支配下にありました。人生が上手くいってそれなりにお金を稼げる時期もあるのですが、お金を手にすると薬物に手を出してしまう。話を聞いていて、依存症から抜け出せないことが最もつらそうでした。
──この方は、一時は不動産系のビジネスでかなり稼いでいましたよね。
松本:自分で建築業の会社を立ち上げたこともあります。本来は世の中を上手く渡り歩ける器用なタイプの人間だと思いますが、野村さんの場合は、そのかたわらにいつも薬物があり、反社会的な組織との関係も切れない。
──コミュニケーション能力はすごく高そうですが、だからこそトラブルに巻き込まれてしまうという印象もありました。
松本:先輩後輩の関係が色濃い地元のヤンキー感があるというか、仲間意識の強いコミュニティの中にいる人ですよね。
