フランスでスリの集団と一緒に暮らしていた男
──本書の最後に登場する、酒井よし彦さんの人生は、映画のように強烈で風変わりでのめり込む内容でした。
松本:オカマバー、闇金、ホストを経験しており、フランスでスリの集団と一緒に暮らしていたこともある人です。現在、酒井さんは吉原の近くに撮影スタジオを持ち、風俗店で働く女性たちのプロフィール写真を撮る仕事をしています。
彼は若い時に、旅行中に飛行機を逃してフランスに置き去りになりました。ところが、すぐに帰国せず、現地の不法移民のスリ集団と仲良くなり、しばらく一緒に活動していた時期がありました。
──あんなにすっと海外の犯罪集団と仲良くなって、仲間に加わっちゃう日本人の若者がいるものかと驚きました。しかも、結構長いことその犯罪集団の中にいたようです。
松本:半年ほど一緒に活動していたそうです。だんだんフランス語も分かるようになってきたと言っていました。あれほどのコミュニケーション能力の高さがあれば、本当にどこでも生きていけます。
この本に出てくる方々から話を聞きながら感じたことですが、失踪できる人たちは皆さんちょっと普通ではない生命力を持っている人たちです。そこが自殺してしまう人とは違うのかもしれないと感じました。酒井さんも闇金で働いていた時代に、警察から逃げるために一時失踪して沖縄に逃げていました。
──風俗雑誌で働いていたときに、社内政治をコントロールするために、酒井さんが大立ち回りをしたというお話はすごかったですね。
松本:当時、彼は風俗雑誌の出版社の営業担当をしていました。それで、ある風俗店から広告枠の仕事を取ったのですが、わざとお店の電話番号を間違えて編集部に伝え、間違った情報を雑誌に掲載させたのです。
風俗店に編集長を連れて謝りに行きましたが、店の店長は怒り狂っています。殴りかかる店長を押さえたり、土下座をしたり、大立ち回りをしてなんとか店長の許しを得るのですが、じつはそれは店長と組んで仕込んだ芝居でした。広告主を逃すと肝を冷やした編集長はそれ以来、酒井さんに頭が上がらなくなったそうです。
──こういう人は敵に回したくないですね。
松本:酒井さんはとにかく弁が立つ人です。彼はかつて自己啓発セミナーの営業職を担当し、会員にもっと上のクラスを受けさせて受講料を出させる説得や勧誘がとても上手かったそうです。話術はそこでだいぶ磨いたと言っていました。
──たくみな話術で不可能な要求をのませる感じは、どこか伝説のAV監督村西とおるさんなどに似ている印象がありますね。
松本:たしかに似ているかもしれません。