数百万台のロボットが感情を持てば新たな倫理観が必要になる(写真:Thenongphoto/shutterstock)
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 AIは日々賢くなっていると聞く。だが、AIが賢くなるとはどういうことなのだろうか。AIの知はどのような目標に向かって発展しているのだろうか。『知性の未来 脳はいかに進化し、AIは何を変えるのか』(新潮社)を上梓したAIサービスで注目を集める米企業Bluecoreの創業者マックス・ベネット氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書では、さまざまな生物がどのように進化したのか、それぞれどんな知性を持っているのかという点について書かれています。なぜこの点に興味を持つようになったのでしょうか?

マックス・ベネット氏(以下、ベネット):AI開発において生物の進化が重要なテーマだったわけではありませんが、関係はあります。私が生物の進化の過程に興味を持ったきっかけは「モラベックのパラドックス」でした。

 これはどんなパラドックスかというと、たとえば数字を素早く数えるなど、機械には得意なことがあります。人間よりもはるかに素早く正確に数えることができる。一方で、人間のほうが得意なこともあります。皿洗いや外を歩くといったアクションは、機械やロボットにはとても難しいことです。

 なぜ特定のタスクには適応するのに他ではそうではないのか。基盤に物理的な何かがあるのか。ニューロンに何か問題があるのか。導入されたアルゴリズムの問題なのか。

 これは人間の脳とシリコンが作る知能が構造的にどのように異なるのかという疑問であり、コンピュータサイエンスと現代のAI研究における未解決の問題です。そこで、脳がどのように動くのかに興味を持ちました。

 脳の構造を研究する最大の課題は、脳の構造があまりにも複雑なことです。脳には860憶のニューロンと100兆の接続があり、それが複雑に絡み合いながら結び付いています。リバースエンジニアリングで脳内の複雑な接続を再現する技術はまだありません。

 現在、再現できる人工的なニューロンの接続はとても単純です。人間の脳内の場合は、ニューロンの接続によって化学物質が伝わります。数十種類の異なる効果を持つ化学物質の伝達です。こうした化学物質の伝達にどのような効果があるのかは、まだ明らかにされていません。

 私は、脳の働きを解明する異なる方法を模索する中で、生物の進化の過程に強く興味を持ちました。

 進化(漸進な前進)は、常にその前の段階の上に成り立ちます。突然全く新しいものに生まれ変わることはありません。そのため、生物の構造はすべて過去の形式を残しています。そして、始まったときは必ず単純な形をしています。20億年も時をさかのぼれば多細胞生物は存在しません。

 これは脳の仕組みを理解するための新たなアプローチです。時間を巻き戻して単純だった最初の脳を見ていき、その変化を少しずつ追跡していく。このような研究の方向性が必然だとは言えませんが、有用な方法だとは思います。脳の嘆かわしいほどの複雑さを理解したいのです。