持ち前の正義感で人を傷つける人

──篠田誠さんの性格と人生は複雑です。夏目漱石の『坊っちゃん』の主人公に例えているように、とても一言では言えない独特の印象がありました。篠田さんは努力家で、社会で活躍もしてきましたが、蓄積したストレスを突発的な怒りに転換して破壊的になっては人生を台無しにする極端なまでの癇癪持ちです。

松本:篠田さんは「持ち前の正義感で人を傷つける事件を起こす」というサブタイトルで紹介した警備員をしている59歳の男性です。彼は関西で生まれ、高校を卒業してそのまま就職して東京に来ました。

 わがままや自己愛といった言葉だけでは篠田さんの性格は表しきれないものがあります。結婚し、子どもも生まれ、それから離婚もしましたが、彼は子どもの頃から人との衝突を繰り返していました。

 また何かに依存してしまうタイプで、その対象はパチンコだったり携帯電話のゲームだったり、ギャンブル性のある遊びに費やす金額は凄まじいものがあります。一方で彼はワーカホリックな側面もあり、一時は仕事でかなり稼いでいました。

 離婚後にできた彼女とある時一緒に電車に乗ったときの話は象徴的です。酔った男性客と携帯電話のマナーで口論になり、男性客と押し問答が続いたあげく、駅の階段からその男性を突き落としてしまいましたから。傍から見たらやりすぎですが、本人には彼女を守ろうと思ったという理屈もありました。結局は裁判沙汰になりました。

 一生懸命働く人ですが、持ち前の気難しさもあり、その後も葬儀屋など仕事を転々としながらパチンコなどで金を使い果たして、困窮者支援施設を頼ることになります。

──現在は警備員の仕事をしていますが、一緒に現場で働く若い人に説教したりして、やはり軋轢が生じていると書かれていました。

松本:漱石の『坊っちゃん』の主人公は曲がったことが大嫌いで、極端なまでに自分の正義を押し通すところがありますが、そんな彼には下女の清という理解者がいました。篠田さんにも理解して見守ってくれる人がいたなら、もう少し違う人生になったのかもしれません。

──十代から性風俗店を渡り歩いて働き続けてきた緒月月緒さんの人生を読み、こんなに見返りを求めない家族愛を捧げるタフな人がいるものかと驚きました。想像を絶するほどに親から苦しめられてきた人生のように見えますが、それさえ試練のように乗り越え、彼女は強くたくましく賢くなってきたように見えます。なぜ彼女はあれほど強いのだと思われますか?